【航空機事故】ジェットブルー航空292便緊急着陸事故の奇跡
2005年にアメリカで起こった、ジェットブルー航空292便の奇跡をご存知ですか?
飛行機が異常事態であるのにも関わらず、機長の冷静な判断が際立った事故をご紹介します。
概要:
- 日付:2005年9月21日
- 航空会社:ジェットブルー航空
- 使用機材:エアバス式A320-232(機番:N536JB、飛行時間:14,227時間)
- 乗員:6名
- 機長:スコット・バーグ機長(総飛行時間10,829時間、A320の経験:2,552時間)
- 副操縦士:名前不明。 (総飛行時間:5,732時間、A320の経験:1,284時間)
- 乗客:140名
- 出発地:アメリカ カリフォルニア州ボブ・ホープ空港
- 目的地:アメリカ ニューヨークジョン・F・ケネディ国際空港
- 着陸空港:アメリカ ロサンゼルス国際空港 RWY 25L (風 250/8kt)
ジェットブルー航空292便は、現地時刻15:17分にボブ・ホープ空港を離陸しました。
通常の手順通り、副操縦士が飛行機を操縦しておりました。なので機長が着陸装置を上げて加速をしようとすると、着陸装置が上がりませんでした。
また、ECAMのメッセージとして前輪の「L/G SHOCK ABSORBER FAULT」と「WHEEL N/W STRG FAULT」が表示されていたそうです。
副操縦士は14,000ftで水平飛行に移り、出発空港から北東に45km進んだところにある、パームデールという地域に機体を向けておりました。
機長はFCOM(エアバスA320の取扱説明書)を参照し、トラブルシューティングを行なっておりました。
二人はジョン・F・ケネディ国際空港には向かわず近くにあった、ロングビーチ空港のタワーに着陸装置の状態を地上から確認してもらうことにしました。
ジェットブルーの職員と地方のニュース局のヘリコプターが確認にあたり、前輪が進行方向に向かって左に90度向いているとレポートしました。
ECAMの故障ではなく着陸装置は横を向いたまま収納されずに、出たままになって固定されていたのです。
機長は、そのままロングビーチ空港に着陸せずに、ロサンゼルス空港に向かったのです。
その理由は天候、滑走路長、地上緊急車両の設備などを考慮して、ロサンゼルス国際空港の方が助かる可能性がより高いと判断したからです。
また、ロサンゼルス空港の西側は海に面しており、最悪オーバーランしてしまい火災が発生してもすぐに消えることも想定されておりました。(ちなみに、ロングビーチ空港の周りは民家ばかりなのです)
ジェットブルー航空292便は、ロングビーチ空港から北西に約25kmのところにあるロサンゼルス空港に向かいました。
出発したばかりで燃料がまだたくさん積んであったので、機体は上空で数時間待機する必要があったのです。(A320は燃料を捨てる装置がついていないため、エンジンで消費する必要があるため)
ジェットブルーの座席にはモニターがついており、一部の乗客が自分の乗っている飛行機がテレビで報道されているのを見て、パニック状態になり始めておりました。
数時間のうち報道が過激化していき、機長はさらに乗客のパニックを煽ることを心配しておりました。パニック状態では安全な着陸に支障が出るので避けなければならないのです。
ジェットブルーのルールで、1万フィート以下では個人の携帯の使用を認めておりませんでした。しかし、乗客の気持ちを少しでもなだめるために、このルールを破り、6,000ftで携帯電話の使用を一時的に認めました。
さらに、前方3列のお客さんは前輪の真上の席なので心配していることを懸念し、荷物と一緒に後ろの席に移動するよう命じたのです。
これにより、着陸の際に前輪にかかる負担を軽減させただけでなく乗客の心理面も気遣ったのです。
約3時間ほどが経ち、燃料が底を尽きてきたので機長は着陸に取り掛かりました。
接地後の懸念は2点ありました。
- 前輪が折れないか
- 前輪接地後ランディングロールはまっすぐに行くのか
です。前輪が折れてしまっては胴体着陸になり、火花が飛び散り最悪火災が引き起こってしまいます。
また、前輪が真横を向いているので接地後のランディングロールがまっすぐに行く保証はなかったのです。急旋回をしてしまい、最悪横転も考えられました。
更に、機長は客室乗務員にもし前輪が折れてしまったら機体後方からの脱出は不可能なので、前方の脱出口から出るようにとのアドバイスも事前に行なっておりました。
通常旅客機はメインギアが接地してから、約3秒後に前輪が接地しております。この時は、前輪をなるべく長く地面につけずにまっすぐロールして減速する必要がありました。
機長はメインギア接地後、約12秒間前輪を空中にとどめておりました。また、通常はオートブレーキ、スポイラー、リーバーススラストを使用しますが、今回はどれも使いませんでした。
【着陸速度と操縦士の行動】
- 120ktで、ランディング
- 90ktで、ブレーキング
- 60ktで、エンジンカット
これらにより、着陸距離は通常よりもだいぶ伸びてしまいました。ロサンゼルス空港の滑走路は、3,382mあります。しかし、ジェットブルー航空が止まったのは滑走路の残り300mのところでした。
ちなみに、ロングビーチ空港の滑走路長は3,048mだったので、もしこちらに着陸すると決めていればオーバーランしていた可能性が高いです。
結果乗員乗客誰もが犠牲になることなく、ジェットブルー航空292便は無事に着陸する事ができたのです。
前輪の軸も折れる事なく、火花は飛び散りましたが火災になることもなかったです。なので、乗客は緊急脱出はせずに、タラップ(Air Stair)で通常通りL1ドア(進行方向向かって左前)から降機しました。
前輪は金属でできたホイールが半分ほどになり、車軸まですり減っていました。
大きな機体のダメージはこれだけだったので、後でメインテナンスの人がジャッキアップをして、違う前輪を取り付け、飛行機をハンガーまでトーイングして持って行く事ができました。
後の調査でわかった事故原因は、前輪のステアリング機構の取り付けが悪かったそうです。
まとめ:
自分の命がかかっている状況でもあったのにも関わらず、機長は素晴らしい落ち着きぶりでパニックにもならず、正しい判断ができました。
今回素晴らしかった点:
- タワー空港でローパスをして、状況をしっかりと確認した。
- ルールを破り携帯電話で家族などに連絡をさせてあげ、落ち着きを取り戻した。
- 前輪付近の乗客を後ろに移動させ、前輪への負担軽減と乗客の心理的負担を和らげた。
- オーバーランのことも考え、海辺とより長い滑走路を選択できた。
- 前輪をあげたまま12秒間、機体をまっすぐにしながらの減速する技術があった。
このように、色々なことを想定して行動が取れたのは、普段からこういう事が起きたらどうするのかなど、考える機会があったのではないでしょうか。
飛行機に乗っていて、何かのトラブルが発生する事は滅多にないかもしれません。
もしかすると、パイロットでも一生トラブルが発生しないで定年を迎えるかもしれません。
このように通常運航していてもトラブルが起きる可能性が少ないですが、いつ起きてもおかしくない事故の時の手順を準備しておくのは、最後の時の生死を分けるのですね。
また、電波を発した状態で携帯を、飛行中の機内で使用してはいけないという法律を特別に破らせるという決断もなかなか勇気がいる決断であった事でしょう。
今回は、無事に全員が生還したジェットブルー航空292便緊急着陸事故の機長、スコット・バーグさんが素晴らしかったのでご紹介しました。
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【参考文献】
- 「ジェットブルー航空292便緊急着陸事故」(2019年5月29日 (水) 07:15 UTCの版)『ウィキペディア日本語版・英語版』