気圧高度計の仕組みや誤差の種類と許容範囲:パイロットが知るべき基本

「高度計の仕組みはどうなっているの?」
「パイロットとして押さえておくべき高度計の注意点は?」

コックピットに設置されている最も重要な計器の一つが「気圧高度計(Altimeter)」です。気圧高度計は、海面(地表面)からの高さを気圧の差を利用して測るアネロイド式の計器です。

簡単に言い換えると、気圧高度計の中にある金属でできた風船が、膨らんだりしぼんだりすることで、高度をパイロットに伝える装置です。

この記事では気圧高度計の基本的な仕組みや、パイロットとして押さえておくべき注意点をご紹介します。

【この記事を読むとわかる事】
 ▶ 気圧高度計の仕組みとその原理
 ▶ 気圧と気温が気圧高度計に与える影響
 ▶ 気圧高度計の誤差と許容範囲

この記事を最後まで読めば「気圧高度計」について、パイロットとして最低限抑えておくべき知識が把握でき、フライト中の適切な動作や対策を立てることが出来るようになるでしょう。ただ何となく気圧高度計を使用しないためにも、ぜひ参考にしてみてもらいたいです。

気圧高度計の仕組みと動作原理

図1. 気圧高度計の断面図

高度計の主要要素である「アネロイドウェーハ」は、気圧の差を捉える役目を果たしています。このアネロイドウェーハは、密閉されており、内圧が「29.92 inHg」にセットされています。静圧口(Static Port)から伝えられる静圧の変化に応じて自由に伸縮する機構を持っています。

▶アネロイド:ギリシャ語で「液体を使わない」という意味。日本語で空盒(くうごう)と呼ばれる。
▶ウェーハ:円形の薄い板のこと。ウエハーとも記載されることもある。

高度計は、動作のソースとして静圧を使用します。通常大気圧(静圧)は、海面付近でも最も高くなり、高度が上がるほど低くなります。この圧力差を利用して、高度計は動作します。

静圧が低いとき(29.92 inHg未満)、ウェーハは膨張します。ウェーハが膨張すると、機械的にウェーハの動きを文字盤用の針に反映し、高度の上昇を示す仕組みになっています(図1.参照)。

写真1. 高度計の種類

高度の表示は、ポインターが「1つ」のものと「2つ以上」のものがあります(上写真参照)。典型的な高度計のメモリは、0~9まで時計回りに数字が並べられています。アネロイドの動きは、ギアを介して高度を示す1~3本のポインター(針)に伝達されます。

▶一番長いポインター:数百フィート単位
▶中ぐらいのポインター:数千フィート単位
▶一番短いポインター:数万フィート単位
▶写真1.左:約15,480ftを示す
▶写真1.右:約800ftを示す

飛行機が駐機している際、気温15℃、気圧29.92inHgの時、気圧高度計は空港の標高を概ね示します。日々「気温・気圧の変動」は発生するので、気圧高度計を補正してあげる必要があります。

≫関連:【ISA】パイロットにとっての標準大気

気圧高度計につけられているノブを回すと、「気圧ウィンドウ」の値が変わります。例えば、写真1.左側では、現在の気圧は「30.06inHg」に合わせてあり「BARO」と記載されているノブを回すと、この値が変わります。この気圧が書かれている窓のことを「気圧ウィンドウ」又は「コールズマンウィンドウ」と呼びます。

気圧と気温が高度計に与える影響

気圧が高度計に与える影響

気圧ウィンドウに入力する気圧は、安全運航にとってとても重要です。入力を誤ると、命に係わる危険な状況が発生する可能性があります。たとえば、気圧ウィンドウを調整せずに航空機が高気圧エリアから低気圧エリアへと飛行した場合、高度計が指し示す値より実際は低いところを飛行してしまいます。

航空業界には、以下のような古い言い伝えがあります。

“GOING FROM A HIGH TO A LOW, LOOK OUT BELOW”

“高気圧エリアから低気圧エリアに移動するとき、下をよく確認する事”

飛行中は、「地形」「障害物」「他機」とのクリアランスを十分確保するために、高度計設定を頻繁に更新することがが重要である。

多くの高度計は、31.00 inHgが上限値となっていることが多いです。この気圧を超える日はめったにないですが、言うまでもなく万が一これより高い気圧の日には、飛行は推奨されません。

気温が高度計に与える影響

冷たい空気は暖かい空気よりも密度が高いため、標準気温よりも低い気温の中飛行する際、高度計の表示より低い高度を飛行する事になります。

図2. 高度と気温の関係

「気団と気団の境目」や「前線の通過」に際し、気温が激変することがあります。特に、山岳地域を低空で飛行する際には、高度計の表記より実際に飛行する高度(真高度)の方が低くなってしまっていることを忘れてはいけません。

一般的な高度計では、「気圧の変化」は補正できますが「気温の変化」は補正はできないでの注意が必要です。

航空業界には、以下のような古い言い伝えがあります。

“FROM HOT TO COLD, LOOK OUT BELOW.”

“高温エリアから低温エリアに移動するとき、下をよく確認すること”

温度の高度補正は、フライトコンピュータで計算することが出来ます。

≫【まとめ】フライトコンピューターの使い方

極端に低い気温は、航行の安全に影響を与えます。図3.は、ICAOの式から導き出されたもので、気温が極端に低いときに、どれだけの誤差が生じるのかを示しています。

図3. 標高と温度の関係図

高度計の動作

高度計のポインターを動かすには、以下の2つの方法があります。

1. 気圧の変化
2. 気圧の調整

1. 気圧の変化

航空機が上昇または下降する時、気圧が変化し、アネロイドウェーハが伸縮します。気圧が低下すると高度計のポインターは上昇を示し、気圧が上昇すると高度計は下降を示します。

地上の気圧が29.68 inHgの所、誤って29.98 inHgを気圧ウィンドウに入力してしまった場合、高度計の針は実際の標高より約300フィート高い値を示します。しかし、この誤りに気が付いて気圧を29.68 inHgにセットし直すと、標高と概ね同じ高さを示すでしょう。

2 気圧の調整

高度計に入力する気圧は、とても重要です。定期的に気圧ウィンドウに入力する気圧を更新しないと、誤差で予定より低い高度を飛行してしまい、山岳や地上の障害物に衝突してしまう危険性が高まります。出発前に高度計がしっかりと動くのかを確認し、低空飛行をする際にはそのエリアの気圧を適宜入手し、気圧ウィンドウに反映する心掛けが必要です。

高度計も機械なので、壊れてしまうことがあります。必ず毎回出発前に、高度計に奇異な兆候がないかしっかりとチェックしましょう。

高度計のチェック

飛行機が一度飛び立ってしまうと、高度計の誤差・異変を見つけるのが難しくなってしまいます。また、最重要な計器の一つなので、各フライトの前にパイロットは必ず高度計の有効性を検証しなければなりません。

高度計の状態を判断するには、ATISなどから入手した現在報告されている気圧を「気圧ウィンドウ」に設定します。気圧高度計が指し示す高度空港標点の標高が「75ft」以内の誤差であれば、高度計は問題ないと判断できるでしょう。しかし、両者が75ft以上離れている場合、その高度計は一度再較正のために認定修理工場に照会する必要があります。

75ftのマージンが与えられているのは、高度計には「誤差」が生じるためです(駐機場の標高と空港標点の標高が若干違う空港も存在)。

高度計の誤差

高度計には、以下4つの誤差が生じるので頭に入れておきましょう。

▶目盛誤差:目盛誤差とは、大気圧と高度の関係が非直線的であることにより、修正しても残ってしまう誤差をいう。

▶温度誤差:温度誤差とは、高度計を構成するすべての部分の温度変化による膨張・収縮によって生じる誤差をいう。

▶弾性誤差:弾性誤差とは、アネロイド(空盒)の弾性体の特性により生じる誤差をいう。

▶機械的誤差:機械的誤差とは、「可動部分」「連結」「歯車のガタ」「摩擦」等により生じる誤差をいう。

過去問

【過去問】令和5年3月期/事業用操縦士/学科試験問題19

全ての記載は正しいので、正答は(4)といえるでしょう。

【一覧】操縦士学科試験出題履歴

参考文献