大気とは
大気は、地球を包む混合気体の毛布のようなものであり、地表から約560km(約180万ft)までの厚さがあります。この混合物は常に動き続けています。もし大気が見えるとしたら、それは「渦巻」「上下対流」「大きく波打つ海」のように見えるかもしれないです。
地球上の生命は、大気、太陽エネルギー、および地球の磁場によって支えられています。大気は太陽からのエネルギーを吸収し、水やその他の化学物質を循環させ、電気的・磁気的な力で働き、穏やかな気候を提供します。また、大気は高エネルギー放射線や極寒真空空間から地球上の生命を守る役割を担っております。
大気の構成成分
ある一定の空気の体積内において、大気を構成する気体のうち、窒素は78%を占め、酸素は21%です(図1)。アルゴン(0.93%)、二酸化炭素(0.039%)、および微量の他の気体で残りの1%を占めています。この空気の体積には、水蒸気も含まれており、体積に対して約0~5%まで変化します(地表面からの水蒸気の蒸発や、植物からの蒸散などによって)。この少量の水蒸気が、天気の大きな変化を引き起こす原因となります。
また、大気は混合気体であり、その成分は、厳密には「場所」「日」によって変化します。しかし、水蒸気を除いた乾燥空気の成分はほぼ一定の割合をなしています。
大気の層:「対流圏」「成層圏」「中間圏」「熱圏」
地球を取り巻く気体のは、4つの層に分けられ下から「対流圏(Troposphere)」「成層圏(Stratosphere)」「中間圏(Mesosphere)」「熱圏(Thermosphere)」と名付けられています。「温度変化」「化学組成」「動き」「密度」の違いを利用して分類されています。
対流圏(Troposphere)
一番高度が低い位置にある大気の層は対流圏と呼ばれ、北極と南極上空では約6km~20km(約20,000~65,000ft)まで、赤道付近では約14.5km(約48,000ft)まで延びています。
ほとんどの「天気変化」「気温変化」などは、この対流圏内で発生し、上下の気流の対流が盛んに起こり、雲や雨など天気に密接な関係を持っています。
また、対流圏内では、高度が1,000ft上昇するごとに平均気温が約2 ℃ずつ低下し、気圧は1,000ft上昇するごとに約1インチの割合で低下する特徴があります。
- 地表面での平均気温は約15℃ですが、対流圏の頂上では約-60℃
- 地表面での大気圧は約1013hPaですが、対流圏の頂上では約100hPa
対流圏と成層圏の境目は、対流圏界面(Tropopause)と呼ばれ、対流圏内の水分などを対流圏に閉じ込める役割をしています。対流圏界面の高度は、緯度や季節によって異なります。また、円形ではなく楕円形をしています。
対流圏界面の位置は重要であり、通常「ジェット気流」の位置と「晴天乱気流」の位置と関連してくるからです。
成層圏(Stratosphere)
対流圏界面の上には、成層圏があり、対流圏界面~高度約50km(約160,000ft)まで延びています。この層にはほとんど気象変化がなく、空気は安定していますが、一部の種類の雲が時折対流圏海面を超えて成層圏まで到達し、形成されることがあります。
また、成層圏内には「オゾン層」と呼ばれる、私達の生命にとって欠かせない層が含まれています。大気中に存在するオゾンの約90%は成層圏(約10~50km/32,000ft~164,000ft上空)にあり、このオゾンが多く存在する層を一般的に「オゾン層」と呼んでいます。成層圏オゾンは、太陽からの有害な紫外線を吸収し、地上の生態系を保護する役割を担っています。また、成層圏オゾンは紫外線を吸収するため、成層圏の大気を暖める効果があります。
また、成層圏内のオゾンの量は、地域や季節によって変化します。一般的に、緯度が高いほど多く、赤道付近では少なくなります。また、「春」に増え「秋」に減少する傾向があります。
中間圏(Mesosphere)
中間圏は、約50km~85km(約164,000ft~279,000ft)の高度に位置します。中間圏は、「大気循環」「気象変化」には、ほとんど影響を与えませんが、その特徴を見てみましょう。
中間圏の特徴:
- 気温がとても低い:高度が上がるにつれて減少する傾向がある。対流圏と同様に、中間圏でも温度が下がる傾向にあり、中間圏の頂上での温度は約-90℃程度
- 大気圧が非常に低い:中間圏の頂上の大気圧は、約0.1hPa以下
- 電離層で電波が反射:酸素や窒素などの分子が高エネルギーの紫外線によってイオン化され、電離層を形成する。これにより、中間圏には電離層が存在し、地球上からの電波が中間圏で反射されることがある
- 流れ星が燃焼する層:流星が大気圏に突入すると、摩擦熱によって燃焼し、光りながら地上に向かって落下
熱圏(Thermosphere)
熱圏は、地球の大気圏の高度のうち、中間圏の上に位置する高度範囲であり、約85キロメートルから600キロメートルの高度に位置します。熱圏は、「大気循環」「気象変化」には、ほとんど影響を与えませんが、その特徴を見てみましょう。
熱圏の特徴:
- 気温が非常に高い:地球の大気圏における最も高温の層であり、高度が上がるほど温度が上昇する。熱圏の頂上では、温度が1,500℃以上に達することがある
- 大気圧が非常に低い:熱圏の頂上では、大気圧は非常に低く、実質的に真空状態に近い状態
- 電離層により地上からの電波を反射:イオン化されたガス分子が存在し、電離層を形成する。太陽から放射される紫外線やX線によって、大気中の分子がイオン化され、熱圏には電離層が存在し、地球上から放送される電波が熱圏で反射することがある
- 国際宇宙ステーション(ISS)などが存在する層:熱圏の高度には、人工衛星や宇宙ステーションが存在しており、熱圏を通過することで大気抵抗によって減速し、軌道が変化することがある
大気循環
全域的影響
大気は常に動いています。大気を動かす要因はいくつかありますが、主要な要因の一つは地球表面の不均一な加熱です。この不均一な加熱によって大気の平衡が乱れ、「大気の動き」と「気圧変化」が生じます。この、地球の表面の空気の動きは「大気循環」と呼ばれます。
地球表面の加熱は、いくつかのプロセスによって行われますが、今回の説明で使用されている単純な対流モデルでは、太陽から放射されるエネルギーによって地球が温められます。このプロセスにより、暖かい空気が上昇し、冷たい空気に置き換わることで円運動が生じます。
暖かい空気は、熱によって空気分子間が広がるため上昇します。空気が膨張すると、周囲の空気よりも密度が低く、軽くなります。上昇気流が発生し、やがて飽和に達して雲を形成します。(空気が乾燥している場合は雲はできない)
空気が冷えると、分子はより密になり、暖かい空気よりも重くなります。そのため、冷たく重い空気は沈み、暖かく上昇している空気に置き換わります。
地球は、傾いた地軸(約23.4°)を回転しながら太陽を周回している曲面を持っているため、地球の赤道地域は極地域よりも太陽から多くの熱を受け取ります。地球を温める太陽エネルギーの量は、時期や緯度によって異なります。これらの要因は、日光が地表に当たる時間と角度に影響します。(日本の四季はこのため発生)
赤道付近で太陽の熱により温められた空気は上昇し、極地域に向かって流れるにつれて徐々に冷やされ、より密度が高くなり地表に向かって沈みますが、地球の自転により生じる力(コリオリの力)により、大気の循環に乱れが生じます。
局所的影響
地球上には様々な物質があります。例えば「岩」「水」「森林」「田畑」「アスファルト」など、身の回りを想像してみるだけで、いろいろなものが思い浮かぶと思います。
太陽により温められやすいものと温められにくいものがあります。例えば、「陸」は温められやすく、「海」は温められにくく冷めにくい性質を持っています。
このような、地表面の物質の特性によっても局所的な大気の循環は発生しており、「海陸風(かいりくふう)」を生み出します。
また、局所的な上昇・下降の鉛直気流により発生するタービュランスに遭遇することがあります。
コリオリの力
地球の自転によって生じる力は「コリオリの力」として知られています。この力は、地球上のすべての移動するものに加わりますが、人間が歩くときには全く感じることはできません。なぜなら、人間はゆっくりと移動し、地球の大きさと回転速度に比べて移動距離がとても短いからです。
しかし、コリオリの力は、気団や水域など長距離にわたる動きに大きく影響します。
コリオリの力は、北半球では空気を右に偏向させ、直線ではなく曲線状の経路ををとらせます。偏向の量は、緯度によって異なり、「北極・南極では最大」で「赤道ではゼロ」になります。
また、コリオリの力の大きさは、動く物体の速度によっても異なります。移動速度が速いほど偏向も大きくなります。
コリオリの力により、各半球(北・南半球)において大気の循環は、3つの異なるセルに分かれます。(図4)
北半球では、赤道付近で温められた空気が上昇し、北に向かって移動します。この時、地球の自転により東寄りに偏向されます。赤道から北極への距離の約1/3程度進むと、空気はコリオリの偏向させる力により北進できなくなり、東進するようになります。
この空気は冷却され、緯度約30度の帯状の領域に沈み、地表に向かって沈むにつれて高気圧領域を作り出します。
その後、地表沿いに赤道に向かって南に流れ始めます。この時も、コリオリ力が流れを右に曲げるため、緯度30度から赤道まで広がる「北東貿易風」を形成します。
同様の力が「緯度30度~緯度60度」「緯度60度~北極」の間で地球を取り囲む循環セルを生成します。
・赤道~緯度30度:ハドレー循環
・緯度30度~緯度60度:フェレル循環
・緯度60度~北極:極循環
この大気の循環パターンの結果、隣接する日本やアメリカ合衆国本土で優勢な上層の西風(偏西風)が発生します。
大気の循環パターンは、「コリオリの力」だけでなく、「季節の変化」「大陸と海面など地表成分の違い」「地形の違いによる摩擦力」などの要因も加わり、さらに複雑になります。
例えば、地表から2,000ft以内では、地表と大気間の摩擦により、移動する空気が遅くなります。摩擦力により風はその経路から逸らされるため、「地表面の風向き」は「上空の風向き」と多少異なります。
パイロットと大気の循環
自然の中を飛行するにあたり、大気の循環に関する知識は、パイロットにとって重要です。「航空従事者学科試験」でも、大気の循環に関する問題が何度も出されております。ここでは、どんな知識を抑えておくことが求められているのか見てみましょう。
【過去問】令和5年3月期/自家用操縦士/学科試験問題1
地表面に地番近い対流圏(Troposphere)に関する知識が問われております。正答は(4)といえるでしょう。
【過去問】令和5年3月期/自家用操縦士/学科試験問題14
塗装された土地や陸は「温められやすく・冷めやすい」特徴を持っています。逆に、海や水分が多い場所は「温められにくく・冷めにくい」特徴があります。温められやすい地域の方が、上昇気流が起こりやすいといえるでしょう。よって、誤りは(3)といえるでしょう。
【過去問】令和4年7月期/事業用操縦士/学科試験問題1
正答は「(3)3」で、(b)の記述が間違っています。「窒素78%」「酸素21%」なので、窒素と酸素の割合の記述が逆になっています。
大気の循環に関する筆記試験問題が以下の通り出題されております:
- 自家用操縦士学科試験:令和5年3月期、令和4年3月期、令和3年11月期、令和3年3月期、令和2年3月期、令和元年11月期
- 事業用操縦士学科試験:令和5年3月期、令和4年9月、令和4年7月
大気の安定度を示すパラメータ
大気が「安定」か「不安定」か、数値で判断する方法があります。世の中には大気の安定度を示す「パラメータ」が存在し、これらにより大気の安定度を数値化してとらえることが出来ます。
ショワルター指数(SSI:Showalter Stability Index)と発雷
種別 | 記号 | 和訳 | 計算方法 | 備考 |
大気の鉛直安定度 | SSI | ショワルターの安定指数 | 500hPaにおける気温と、850hPaの空気塊を断熱的に「持ち上げ凝結高度」まで持ち上げ、そこから湿潤断熱的に500hPaまで持ち上げた時の空気塊の温度との差。 | SSI>0:安定 0~-3:やや不安定(雷雨の可能性あり) -3~-6:中程度に不安定(激しい雷雨の可能性あり) -6~-9:非常に不安定 <-9:極度に不安定 |
500hPaより下方の下層大気の安定度を知る一つのパラメータとして、ショワルター指数というものがあります。
計算方法に記載の通り「②850hPaから持ち上げた空気塊の気温」と見比べて「①500hPaにおける気温」の方が高温の時は、大気は安定しています。逆に、低い時は大気は不安定であると言えます。これは、上記公式のように、①から②を引いた答えが、「大きい数値なら安定」「小さい数値なら不安定」と言い換えられるでしょう。
②の数値が大きいということは、下から持ち上げてきた空気の方が、周囲に既にある空気よりも暖かいということになります。
よって、
と展開できます。更に、大気が不安定ということは、「発雷」しやすいと言えるでしょう。
パイロットが問われるショワルター指数に関しての知識
【過去問】令和4年9月期/事業用操縦士/学科試験問題5
ショワルター指数は数値が大きくなるほど「安定」していると学びましたので、(3)の記載が誤りだとわかります。