概要
- 日付:1994年4月26日
- 航空会社:中華航空
- 使用機材:エアバスA300B4-622R(機番:B1816)
- 乗員:15名
- 機長:42歳男性(総飛行時間:8,340時間)
- 副操縦士:26歳男性(総飛行時間:1,624時間)
- 乗客:256名
- 犠牲者:264名(生存者:7名)
- 出発地:台北国際空港(現台湾桃園国際空港)
- 目的地:名古屋空港
日本時刻17:53に中華航空140便は、台北国際空港を出発し、約2時間18分のフライト予定で、名古屋空港に向かいました。
この便は、副操縦士が操縦を担当(PF)しており、10:47頃に巡航高度FL330からFL210へATCの指示のもと、高度を降ろし始めました。
東京アプローチから名古屋アプローチへと移管され、その後も着陸のため引き続き高度を降したり、速度を減らしたりしていきました。
11:11頃、RWY 34へのILSアプローチが許可され、タワーに移管されました。この時、副操縦士はオートパイロットをディスエンゲージし、手動で飛行機を操縦しておりました。
11:12頃、アウターマーカーを通過後、タワーから着陸許可が発出され、その時の風向風速は290/6kt程度でした。
11:14.05頃、気圧高度約1,070ftを通過した頃、副操縦士が誤ってGo Aroundモードをエンゲージしてしまったため、機体の推力が足されました。
機長はそれに気がつき、副操縦士に注意すると共にGo Aroundモードを解除するよう指示しました。
推力が足された機体は、1,040ftで一度レベルオフしその状態を約15秒間維持しました。
アプローチを続けるにはパスが高くなってしまったので、機長は元の降下パスに戻すよう指示をし、副操縦士も了承をしピッチダウン操作を行いました。
機長は、これまでの間に2回Go Aroundモードを解除するよう指示しており、この機体は現在Go Aroundモードである事を認識しておりました。
11:14.18頃、どちらがエンゲージしたかはわかりませんが、オートパイロットAP1とAP2がエンゲージされましたが、オートパイロットをエンゲージした旨のコールアウトはボイスレコーダーには記録されておりません。
オートパイロットエンゲージ18秒後には、機体はGo Aroundモードなので、THSの角度が-5.3°から機首上げのほぼ限界である、-12.3°まで移動しました。
この間、副操縦士はアプローチ継続のためエレベーターを機首下げ方向に操作し続けておりました。
11:15.02頃、副操縦士がスラストがラッチされた事(アルファ・フロア)を機長に告げ、機長と操縦(PF)を交代しました。
機長は一度スラストを前に出しラッチを解除して、再び引き戻しました。
THSに対抗するためエレベーターは、ほぼ機首下げの限界まで操作されています。
11:15.11頃、操縦士達は一度アプローチを諦め、機長が「Go Lever」のコールアウトを行い、フラップは「30/40」から「15/15」に戻されました。
副操縦士はATCにGo Aroundする旨を伝え、タワーは了解しました。
機体が急上昇を始めると、AOAが急激に増加したため、機体速度は急激に減速しました。
11:15.17頃、GPWSが発動し「Glide Slope」が25秒、失速警報音が約2秒作動しました。
11:15.31頃、1,730ftを通過したのち、機首下げ状態となり急降下を始めました。
11:15.37頃、GPWSが再び発動し、「Terrain Terrain」が11:15.40頃から墜落までコックピットで鳴り響いていました。
11:15.45頃、名古屋空港の誘導路E1付近の着陸帯内に激しく叩きつけられ、264名が犠牲となる大惨事となりました。
事故原因
副操縦士が誤ってGo Aroundレバーを操作してしまい、機体はGo Aroundモードとなり、スラストが足され降下から上昇に移ろうとしておりました。
Go Aroundモードを解除しないまま、オートパイロットがエンゲージされ、その後も副操縦士が操縦桿をピッチダウン方向に倒し続けていました。
そのため、THSが異常なほど機首上げ状態となり、アウト・オブ・トリム状態となっていました。
このため、アプローチを諦め機首上げ操作を行った際に、異常に機首が上がりすぎ速度の異常低下をもたらしたと考えられます。
事故調査委員会は、次の12項目が連鎖して事故に至ったとしています。
- 副操縦士が誤ってゴー・レバーを作動させたこと。
- ゴー・アラウンド・モードが解除されていない状態で、APをエンゲージし進入を継続したこと。
- 進入を継続するため、操縦輪の操舵が重い状態であるにもかかわらず、機長の指示の下で副操縦士が操縦輪の押し下げ操作を続けたこと。
- THSとエレベータが整合することなく作動し、異常なアウト・オブ・トリム状態になったこと。
- 同機に、以上なアウト・オブ・トリム状態への動きを直接的かつ積極的に操縦士に知らせる警報・認識機能がなかったこと。
- 機長及び副操縦士の、FPのモード変更及びAPのオーバーライド機能に関して理解に欠ける点があったこと。
- 機長の進入継続中の飛行状態の判断が適切でなく、操縦の交代の時機が遅れ、適切な処置が講じられなかったこと。
- アルファ・フロア機能が、異常なアウト・オブ・トリム状態と適切に整合することなく作動し、大きな機首上げモーメントを発生させたため、操縦士のその後の回復操作のための時間的余裕を狭めたこと。
- 機長及び副操縦士がそれぞれ、操縦交替後の飛行状況の把握及び以上な飛行状態からの回復操作に適切さを欠いたこと。
- 機長及び副操縦士間のクルー・コーディネーションが適切に行われなかったこと。
- 同機に、技術通報SB A300-22-6021による改修が行われていなかったこと。
- 技術通報SB A300-22-6021を、航空機製造会社が最も優先度の高いMandatoryとして発行しなかったこと、及び設計、製造国の対空性管理当局が、速やかに上述のSBの実地に係る対空性改善命令を発行する措置を講じなかったこと。
まとめ
フライトがいくら順調に行っていても、最後に何が待ち構えているかわかりません。
もし、いつもと違うことが起きたのであれば、すぐにでもGo Aroundをして状況を立て直してから再度アプローチすることは可能でしょう。
いつもと違う事をする時に、目には見えないトラブルが待ち構えているものですね。
【参考文献】