【飛行機の電気回路】サーキットブレーカー:パイロットが抑えておくべき基本

「サーキットブレーカーとヒューズの違いは?」
「サーキットブレーカーがポップアップしたらどうしたらいいの?」

飛行機も電気で制御されるようになり、照明から計器まで多くの電気を消費しています。各配線が振動等で劣化し短絡火災が機内で発生しては、とても危険です。万が一に備え「サーキットブレーカー」という安全装置が電気回路に組み込まれています。

【この記事を読むとわかる事】
 ▶サーキットブレーカーの仕組みと働き
 ▶サーキットブレーカーとヒューズの違い
 ▶サーキットブレーカーがトリップしたときの対処方法

この記事を最後まで読むと、サーキットブレーカーの役割が把握でき、万が一安全機構が発動したときに、適切に対処できるようになるはずです。機内火災防止に向け、ぜひ参考にしてみてください。

サーキットブレーカーとは

サーキットブレーカーは、電子機器や回路を電気的な過負荷から保護するために使用されます。適切な電流の制限値が設けられ、それを超える値の電流が超えたときに「トリップ」し回路等を保護します。

トリップ:過電流を検知したとき電気の流れを遮断する事。

セスナ式172のサーキットブレーカー
写真1. セスナ式172のサーキットブレーカー

電流制限値は、通常サーキットブレーカーにそれぞれ印字されております。写真1.で赤色で四角く囲ったところがサーキットブレーカーです。白地に黒文字で ③ ⑤ ⑩ など記載されているのが分かるかと思います。この数字は、「⑩=10アンペア」が電流許容値という意味です。

また、どの電気回路で過電流が発生したのか、サーキットブレーカーのプラカードで確認することができます。図1.の上段の赤色四角内の左から3つ目のサーキットブレーカーのプラカードに「GPS」と記載があります。よって、このサーキットブレーカーがトリップしたときは、GPS系統で何かしらの問題が発生したと判断することが出来ます。

サーキットブレーカーと似たもので「ヒューズ」があります。

「サーキットブレーカー」と「ヒューズ」の違い

ヒューズの役割もサーキットブレーカーと同じく、電子機器や回路を電気的な過負荷から保護するために使用されます。

サーキットブレーカーとヒューズの違いは「リセットできるか・できないか」です。

▶サーキットブレーカー:トリップした際に、手動でリセットすることが可能
▶ヒューズ:ヒューズが切れた際には、ヒューズの物理的交換が必要(リセット不可)。よって、スペアの準備が必要。

ヒューズは過電流を感知する機構に「すず」や「」などの溶けやすい金属が使用されています。過電流が発生したときにこの溶けやすい金属が溶断することで、電気回路を遮断します。なので、一度溶断された金属は元に戻せないので、毎回新しいヒューズと交換する必要があります。

電流制限値は、それぞれのヒューズに記載されております。ヒューズの種類の数分スペアを用意しておかなければなりません。ヒューズは「交換作業」「在庫管理」などの手間が発生することなどから、サーキットブレーカーの方が好まれる傾向にあります。

サーキットブレーカーの仕組みとトラブルシューティング

サーキットブレーカーは過電流を感知して、回路を遮断します。過電流が発生する原因は主に2つ考えられます。

①電子機器の消費電力が規定値をオーバー
②機器や配線のショート(短絡)

飛行機についている「サーキットブレーカー」も家についている「ブレーカー」も基本原理は同じです。「電子レンジ」「エアコン」「IHコンロ」「ドライヤー」など消費電力が大きいものを一度に使ってしまうと、ブレーカーが落ちる経験をしたことがある人も多いでしょう。

この場合、一度に使用する電化製品の数を制限しブレーカーを上げると、問題は解決されるでしょう。飛行機の場合も同じで、過電流を感知したらサーキットブレーカーはポップアップ(突出)します。ポップアップしたサーキットブレーカーを押し戻すことでリセットすることが出来ます。

リセット後に再度ポップアップする場合は、何かしらの問題が継続的に発生している可能性が高いので、リセットは1回までとし、再びポップアップする際はメカニックなどに相談し確認してもらいましょう。また、そのような不具合があったことを人に伝えるために、機体の不具合状況などをしっかりと記録しましょう。

ダッチェスのサーキットブレーカー
写真2. ビーチクラフト式BE-76ダッチェスのサーキットブレーカー

より、深刻なのが②の時の場合です。

飛行機は多くの電子機器を使用しています。「オルタネーター」や「APU」などから電気を作り出し、多くの電気を消費しています。コックピットにある計器でも数十~数百あり、それらのほとんどが電気を使用しています。飛行機が振動することにより、電線がこすれ合い、配線の被服にダメージが起きることもあるでしょう。

目に見えないところに配線されていることが多いため、目視で配線のダメージ状況を確認することは難しいでしょう。配線や機器がショートすると「煙」や「発火」するので、閉ざされた機内では逃げ場がなくとても危険です。

私もエアバス式A320に乗っているとき、何度か出発前にサーキットブレーカーがポップアップしていることがありました。機体の説明書を参考に復旧作業を行いますが、中にはパイロットがリセットしてはいけないサーキットブレーカーもあるので注意が必要です。メカニックが多くの確認項目を検査して、初めてリセットできるサーキットブレーカーが存在します。

メカニックが常駐していない空港などでは、それらのサーキットブレーカーはリセットすることが出来ません。なので、その回路を使用する機器・計器は使用することが出来なくなります。

取扱説明書を読み、その機器・計器を使用しなくとも安全に航行できるか再度確認してから、出発することもあります(念のため電話でメカニックに相談することもあります)。

サーキットブレーカーがポップアップしたからと言って、ただ押し戻せばいいという事ではありません。ポップアップした原因があるので、それを突き止め、被害が拡大しないか確認することが重要です。

航空従事者等学科試験で問われた「サーキットブレーカー」に関しての知識

【過去問】令和5年1月期/事業用操縦士/学科試験問題17

リセット後に再びポップアップしてしまう場合は、何らかの問題が継続的に発生している可能性があります。原因究明をしないと最悪火災につながることもあるので、その「機器を使用しないで運行」するか「運航を取りやめ直ちにメカニックに相談」するとよいでしょう。よって(4)の記載が誤りと言えます。

【過去問】令和4年7月期/自家用操縦士/学科試験問題16

(4)の説明は「ヒューズ」についてなので、「サーキットブレーカー」についてではありません。なので、誤りは(4)と言えるでしょう。

【一覧】操縦士学科試験出題履歴

参考文献