飛行機の性能を左右する翼の平面形:パイロットが知るべき基本

「翼の形で飛行機の性能はどう変わるの?」

「翼の形で何か注意点はあるの?」

色々な飛行機を見ていると目に入ってくる「翼の形」は、どのようなものがあるのか気になる人もいるでしょう。一般的ではない翼の形もありますが、主に下記の6種類の翼の形があります。

①楕円翼(だえんよく)
②矩形翼(くけいよく)
③テーパー翼(先細翼)
④後退翼(こうたいよく)

パイロットとして、飛行機をより安全にコントロールするには、翼の平面形を知る必要があるでしょう。平面形とは、真上から見た翼の形状のことです。

この記事では「翼の形(平面形)」や「その特徴」について、詳しく解説していきます。

【この記事を読むとわかる事】

・翼を設計する際の注意点
・翼の平面形の種類とその特徴

翼の設計

「アスペクト比」「テーパー比」「後退角」は、翼の空力特性にとって大きな影響を与えます。

▶アスペクト比:翼幅と翼弦の比率
▶テーパー比:平翼の根元から翼端までの翼弦または翼の厚さの減少
▶後退角:翼、水平尾翼、またはその他の翼面の後方傾斜

翼のパフォーマンスを設計段階で変更する方法は、以下の2つです。

a. アスペクト比の変更
b. 先細にする

a. アスペクト比の変更

アスペクト比は揚抗比を決定する主な要因です。

アスペクト比を上げると、高迎え角で抵抗が減少する特性があるので、上昇姿勢での翼のパフォーマンスが向上します。また、アスペクト比が増加するということは、スパンの長さが増加するということなので、翼構造による重量が増すということに繋がります。これにより、抵抗が減少するという特性の一部が失われてしまいます。

逆にアスペクト比を下げると、上記とは逆の現象が起こります。

翼のアスペクト比を決定する中で、上記の事をふまえ、妥協ポイントを見つけることが大切です。例えば、低空を低速で飛行する訓練機(セスナ式C172)などは高い揚力係数を必要とするため、比較的高いアスペクト比で翼が設計されています。

逆に、高高度を高速で移動する旅客機は、抵抗をできるだけ小さくし、翼の強度を高める必要があるため、より低いアスペクト比の翼が採用されています。

低アスペクト比の翼は、特に低速飛行時で高い操縦技術を必要としますが、高アスペクト比の翼は、多少のパイロットの不適切な操作に対する許容範囲を広げてくれるメリットがあります。

b. 先細にする

翼の根元から先端にかけて先細にすることで、抵抗が減少します。これは、高速で移動するときに最も効果を発揮します。

「抵抗が減少すること」に加え「翼構造による重量が減少すること」で「揚力」が増す利点が生まれます。

①楕円翼(だえんよく)の特徴

楕円翼のメリット

楕円翼は、亜音速での飛行時に、与えられたアスペクト比に対して「誘導抗力」が最小限に抑えることが出来る形です。

楕円翼のデメリット

失速特性は、矩形翼よりも劣ってしまいます。この翼の最大の揚力は、失速速度直前で得ることが出来ますが、完全失速の事前の警告がほぼないので、経験の浅いパイロットにとっては取り扱いにくいと言えるでしょう。

また、補助翼の有効性が低いため、横方向の制御が難しくなる特徴があります。

更に、翼先端を丸く作成するには、より高度な技術が必要なため、製作コストがかさみます。

②矩形翼(くけいよく)の特徴

矩形翼のメリット

上図のように、矩形翼の失速は根元から始まり、先端へと広がっていきます。これにより、完全失速する前に、機体が振動するなどの失速警告をパイロットに提供してくれます。

また、長方形の翼はとても作成が容易で製造コストを下げることが出来ます。

矩形翼のデメリット

抵抗が大きいため、高速での飛行には向いていません。

③テーパー翼(先細翼)の特徴

テーパー翼のメリット

テーパー翼は、その形から「重量」と「剛性(曲げやねじりの力に対する力)」の観点でメリットがあります。

テーパー翼のデメリット

先細になるほど、失速は良く先端から始まるようになり、完全失速の際に補助翼の効きが悪くなってしまいます。

例えば、テーパー比が2/3の翼では、失速はスパンに沿ってほぼ同じように始まります(上図左参照)。しかし、テーパー比が2/3より小さくなると、失速はより翼先端から発生することが分かります(上図中、右参照)。

失速が翼先端から始まる現象を、翼端失速(Tip Stall)と言います。低速飛行時に翼端失速に陥ると、スピンを引き起こし、回復操作が困難になります。

また、楕円翼と比べると航空力学的に効率が劣ってしまいます。この差分を埋めるために、「②矩形翼」や「③テーパー翼」は、翼の先端をねじり下げることで、楕円形の揚力配分に近づけようとしています。

④後退翼の特徴

後退翼のメリット

後退翼は高速飛行に有利な形となっており、「臨界マッハ数」を大きくすることが出来ます。

臨界マッハ数:主流の速度が音速に達する以前に,翼上面の最大速度の点では流れの速度が音速になる。このときの主流のマッハ数を臨界マッハ数という。臨界マッハ数の大きさは物体の形によって決まり,ふつうの翼型では0.7~0.8程度である。

コトバンク

臨界マッハ数が大きくなることにより、速度超過による翼上面の気流の剥離・失速を遅らせることができ、より高速で飛行する事が可能となりました。

後退翼のデメリット

後退角が大きい翼ほど、低速飛行を苦手とし、翼端失速を引き起こしやすいです。

また、低速飛行時に高揚力装置の補助を必要としたり、翼の迎え角を大きくとるため、機首を大きく持ち上げる必要があります。

更に、後退角ににより「上反角効果」が強くなり、ダッチロール(Dutch Roll)に陥りやすくなる傾向があります。

航空従事者学科試験で出題された「翼の平面形」に関する問題

【過去問】令和5年3月期/事業用操縦士/学科試験問題5

矩形翼は翼の付け根から失速がしやすく、後退翼では翼端失速を引き起こしやすいので、(a)と(d)の記載は誤りと言えます。よって、正答は(4)と言えるでしょう。

【一覧】操縦士学科試験過去出題状況

参考文献