【飛行機の翼と振動】パイロットが知ってお行きたいフラッタ現象とその対処方法

「フラッタ(Flutter)とは?」
「フラッタの防止方法は?」

飛行機を設計するにあたりフラッタ対策はとても重要です。パイロットとして、フラッタに対してどうにかできることは少ないですが、フラッタ現象とはどういうものでどのような影響を与えるのか理解しておくことで、より飛行機の知識を深めることが出来るでしょう。

高速で移動する時代になった現代では、飛行機とフラッタは切っても切れない関係になりました。フラッタにより最悪機体が空中分解してしまうこともあります。

そこで、この記事ではフラッタの概要や危険性、そっして防止策をご紹介します。

【この記事を読むとわかる事】

 

▶フラッタとは
▶フラッタの防止策
▶パイロットが実際に問われた「フラッタ」に関する知識

フラッタとは?

「フラッタ(Flutter)」とは、辞書では下記のように記されています。

流体の流れの中に置かれた弾性体が振動する場合に,弾性振動とそれに伴う流れの変動の相互作用によって生じる周期的な不安定振動をいう。航空機,軸流圧縮機,軸流タービンなどの翼にみられる現象。

コトバンク

旗が風でなびいているのもフラッタ現象の一部です。「フラッタ(Flutter)」という言葉は「旗/フラッグ(Flag)」からきているという説もあります。その他にも「吊り橋」「電線」「風車」などの構造物でもフラッターによる振動問題が発生しています。

日本国旗

飛行機が地上走行をしているとき、翼が上下に波打っているのを見たことがある人も多いのではないでしょうか。地上の凹凸などによる振動がランディングギアから翼まで伝わり、翼は上下に揺れています。

しかし、離陸滑走の速度を上げていくと、翼の波打ちは徐々に解消されていき、水平飛行に入り気流が安定しているエリアを飛行中は、翼は一切振動しなくなります。

これは、ランディングギアが地面から離れ振動を拾わなくなったことも原因の一つですが、機体が速度を上げることにより翼の周りの気流が振動を抑える働きをしているからです。

航空機の翼は、「しなった状態」と「まっすぐな状態」を繰り返し振動を引き起こします。振動をなくすには、この力をなくす必要があり、翼を出来るだけ安定してまっすぐな状態を保ち続ける必要があります。

飛行速度を上げていくとこ翼は数Hz~数十Hz程度で振動を始めます。この振動が翼の周りの空気の流れを変えてしまい、更に翼が振動をする状況が助長されてしまうという負のループに陥ってしまいまう。これを自励振動(じれいしんどう)と呼びます。

自励振動とは、振動学的には「振動発生の原因である非振動的エネルギーが、その系内部の因子により振動的な励振エネルギーに変換されて発生し、自分でどんどん成長する振動」

CYBERNET

更に飛行速度が増していくと、翼上面を流れる気流が音速を超えるあたりからショックウェーブと呼ばれる強い振動も生み出してしまいます。

これらの振動により、翼には「上下運動」と「ねじり運動」が生じます。この運動が翼の「運動エネルギー」と「弾性エネルギー」となり、振動が増幅・持続されるメカニズムになっています。

フラッタが発生すると振動により乗り心地が悪くなるだけでなく、振動や伸縮で金属疲労が進み、限界を超えると機体に使われている部品が破断してしまいます。

このフラッタを防止する方法が先人たちによって考案され、現代の航空機にも採用されています。

フラッタの防止策

下記に記載の方法がフラッタの防止策として有効とされています。

① 翼構造を頑丈にしてねじれや曲げの強度を高める
② 舵面の重心位置をできるだけ前方へ移す
③ 後退角を小さくする
④ その他のフラッタ防止に関する発明

①翼構造を頑丈にしてねじれや曲げの強度を高める

上記でお伝えしましたが、翼に「上下運動」や「ねじり運動」が生じ、フラッタの振動が増幅・持続されてしまいます。翼の「構造」や「素材」を変えることにより、より頑丈な翼を設計できるとフラッタの軽減に繋がります。

② 舵面の重心位置をできるだけ前方へ移す

翼構造の「ねじれ」や「しなり」の中心より前に重心が来るよう調節すると、フラッタの防止に繋がります。航空機の舵面には「マスバランス」という「おもり」を取り付け、フラッタの防止を図っています。

高速飛行中、圧力中心(CP:Center of Pressure)が後方に移動し翼や舵面の「しなり」や「ねじり」を生じさせます。舵面の場合、ヒンジの辺りで「おもり」と「圧力中心」のバランスがとれるようマスバランスの位置と重さを調整し取り付けてあげることにより、高速飛行中に生じる舵面のフラッタ防止策が取り入れられています。

③ 後退角を小さくする

旅客機は高速飛行を目的に後退翼が採用されることが多いです。後退翼のデメリットとして、縦横比が大きく薄いため、翼がたわみやすいです。後退翼を小さくすることで縦横比が改善され、フラッタの防止に繋がります。

現代は高速移動が求められている時代なので、遷音速(せんおんそく)で飛行する旅客機などから後退翼を排除することは難しいでしょう。そのため、飛行機の重さで大きなウエイトを占めるエンジンがマスバランスとして利用されています。

遷音速(せんおんそく):マッハ0.8~1.2程度。英語でTransonic。

重さのあるエンジンを翼に取り付けることにより、高速飛行時のフラッタを防止する効果を発揮しているのです。

④ その他のフラッタ防止に関する発明

フラッタを防止するために多くの発明がなされてきました。代表的な6つの発明は下記のとおりです。

① フラッタ振動を打ち消すための補助翼を主翼に取り付ける(米国特許番号3,327,965)
② 翼フラッタのエネルギーをエンジンナセルへ直接伝達しないように減衰装置を取り付ける(米国特許番号3,327,965)
③ 前縁・後縁フラップによりフラッタを減衰させる(米国特許番号3,734,432)
④ 空気式のスプリングを採用して翼フラッタを減少させる(米国特許番号4,343,447)
⑤ 外部荷重による翼フラッタ防止のためのスプリング装置を開発(米国特許番号4,502,652)
⑥ 左右の翼を違う周波数であえて振動させる(JP2788914B2
翼フラッタ:翼が「しなった状態」と「まっすぐな状態」が繰り返され翼の振動が減衰しない現象をいう。

翼に対する「エンジンナセルの位置」「エンジンの重さ」「エンジンナセルの支柱の剛性」が翼フラッタの影響を与える主な要因であると言われています。

また、フラッタが発生してしまったときにより不利益を少なくするために「アスペクト比」「後退角」「テーパ比」「翼厚比」「上反角」など翼の幾何学形状から翼のデザインは行われています。

パイロットが問われたフラッタの知識

【過去問】令和4年9月期/事業用操縦士/航空工学/学科試験問題11

(a)(b)(d)の記述が正しいので正解は(3)です。ちなみに(c)の「ドーサルフィン」は、飛行中の安定性(ヨー軸)を向上させるためのものです。

【過去問】出題状況

参考文献