ゴーアラウンドをいつでも行えるよう、準備はできていますか?
ゴーアラウンドをする要因は「ATCの指示」「滑走路に他機の侵入」「ウィンドシアー」「ウェイクタービュランス」「装置のトラブル」「地震」「アンステイブルアプローチ」などがあるでしょう。
ゴーアラウンドは緊急手順ではないので、少しでも安全な着陸に不安を覚えるなら、ゴーアラウンドをして状態を整え直します。
ゴーアラウンドに苦手意識を持つ人もいるのではないでしょうか。
今回は、通常運航でも緊急事態でも使う可能性があるゴーアラウンドについて見ていきましょう。
ゴーアラウンドの決断が遅れるとき
着陸のフェーズでいつゴーアラウンドを実施しなければいけなくなるかわかりません。
一番大変な状況なのは、接地間際の際にゴーアラウンドをしなければいけなくなったときでしょう。
ゴーアラウンドの操作事態は決して危険なものではありません。
ゴーアラウンドが危険になるのは、「誤ったゴーアラウンド操作を行ったとき」や「ゴーアラウンドの決断が遅れたとき」です。
ゴーアラウンドの決断が遅れるのは:
- 着陸への期待:客観的に見て重大なことが起こっても、安全な着陸に影響はないと思いたい気持ち
- プライド:ゴーアラウンドは、アプローチや着陸がうまくいかなかったから行うという概念
この2つが原因しています。
ゴーアラウンドを安全に行うには、「パワー」「姿勢」「コンフィギュレーション」の3つをしっかりと押さえておく必要があります。
パワー

一度ゴーアラウンドを決断したら、まずはフルパワーにします。
パワーを入れるのを迷ったり、中途半端な量だけパワーを入れるのはよろしくありません。
アプローチをしているので、機体は滑走路へ向けて降下しています。
機体に働く慣性の力を乗り越え、進路を降下から上昇へと転じなければなりません。
この力を乗り越えるためにフルスロットルにし、機体をコントロールすることができる速度を保ちながら上昇しなければなりません。
パワーを最大にしますが、スロットルの動きはスムーズに行います。
ある一部のエンジンでは、急激にスロットルを動かすと力が弱まったりダメージを与えることがあります。
キャブレーターヒートが搭載されている機体は、最大限のパワーを引き出すためにキャブレーターヒートをオフにすることを忘れないようにしましょう。
上昇姿勢
マックスパワーの次に大事なのは、機体の姿勢です。
機首を上げて上昇姿勢を作らないと、パワーを足しても上昇せずに地面に向け加速していってしまいます。
また、機首を上げすぎても失速を引き起こしてしまいます。
なので、失速速度にマージンを持たせた速度以上になるように姿勢を作り、、その姿勢を維持することが大事です。
すぐに高度を獲得したいという心理から、勢いよく操縦桿を引いてしまう心理がパイロットに働きます。
しかし、パワーを足す前に機首上げ操作を行ってしまうと、速度が一気に減り失速を引き起こします。
低高度で失速に入ると、リカバリーはほぼできないでしょう。
最低限飛行できる状況を作らないと、上昇することはできないので機首上げ操作の焦りは禁物です。
上昇姿勢と上昇速度が獲得できたら、一度大まかにトリムを取り直すといいでしょう。
このことを業界用語で、「ラフトリムをとる」のように使います。
アプローチ中のトリムセッティングと上昇のトリムセッティングは違うので、ゴーアラウンドしたらすぐにラフトリムをとり、姿勢と速度が落ち着いたら正確にトリムを取り直すといいでしょう。
コンフィギュレーション
パワーを入れ、上昇姿勢と速度を整えたら、フラップとランディングギアの順番でコンフィギュレーションを整えていきます。
ここまでの流れをおさらいしてみると:
- ゴーアラウンドすることを決定
- マックスパワーを入力
- 上昇姿勢を作り、降下をとめる
- ランディングフラップの一部を引き上げるか、テイクオフポジションにする
フラップをあげ、飛行機の形態を変えるときは注意が必要です。
フラップが浅い角度になるということは、失速速度が上がります。
なので、飛行機が実際に加速したのを確認してから収納した方が安全です。
急激に着陸形態からフラップアップにしてしまうと、リフトを失いその結果地面に叩きつけられる可能性があります。
ランディングギアよりランディングフラップを先に収納する理由
AFMやPOHにランディングギアを先に収納すると書いていない場合は、ランディングフラップをランディングギアよりも先に収納します。
その理由は2つあり:
- フルフラップはランディングギアよりも抵抗が大きい
- うっかり接地してしまうかもしれないので、確実に上昇するまでギアは下ろしておきたい
からです。
フラップセッティングが何段かある機体での操作は、「フラップ→ギア→フラップ→フラップ」と収納する流れになるでしょう。
ゴーアラウンドでよくあるエラー
- ゴーアラウンドを必要とする状況の認識不足
- 優柔不断
- ゴーアラウンド操作の遅延
- マックスパワーをスムーズにいれられない
- パワー操作が急激過ぎる
- 上昇ピッチが不適切
- 機体のコンフィギュレーションが正しく整えられない
- トルクやP-Factorへの対応が不十分
- 機体のコントロールを失う
まとめ
マックスパワーで上昇姿勢を作るときは、とても操縦桿が重たく感じるでしょう。
また、単発プロペラ機ではパワーの出力が急激に増えるので、機首が左を向こうとします。
これらの力に打ち勝ち、上昇姿勢を作らないければなりません。
トルクやP-factorに対抗するため、右ラダーも踏み込む必要があるでしょう。
操縦桿を引く操作に関しては、ラフトリムを取ることで無駄に強く操縦桿を支えておかなくて良くなるでしょう。
さらに、操縦桿やラダーに力を入れている状態でフラップレバー操作は注意が必要です。
一気に2段収納してしまったり、他のスイッチに触れないように注意しましょう。
もしワークロードが重なり同時操作が大変なら、飛行機を操縦するのが一番大切で、コンフィギュレーションを整えるのはそのあとで十分です。
低い高度でゴーアラウンドをした際には、滑走路に一度接地をしてしまう可能性もあります。
なので、ギアは上昇し始めるまでは下ろしたままにしておくことが重要です。
ゴーアラウンド中に接地する事は、特段危険なことではないので、パニックに陥らず上昇姿勢を維持し続けましょう。
急激にピッチアップするのは厳禁です。
ストールを引き起こし、強く地面に叩きつけられてしまいます。
急激にピッチアップしやすい状況は、ラフトリムが取れていなくてフルフラップのときだそうです。
今回の知識を踏まえ、自分のゴーアラウンド操作について見直す機会となれば幸いです。
【参考文献】