【ISA】パイロットにとっての標準大気

標準大気とは

標準大気とは、気圧、温度、密度、音速、粘性率などの大気条件を標準化して定めたもので、国際標準大気(ISA:International Standard Atmosphere)として知られています。これは、航空業界で広く使用されており、航空機の性能、運航計画、航法計算に必要な基本的な情報を提供します。

標準大気は、大気条件を標準化した仮想の基準大気であり、国際標準大気表(ISA表)として公開されています。実際の大気条件が標準大気から外れる場合があるため、パイロットは標準大気を理解し、実際の天候条件に合わせて飛行計算を調整する必要があります。

国際標準大気は以下の仮想値を持った大気のことを指します。

項目
地上気圧1013.250hPa
地上気温15.0℃
気温減率地上~11km:-6.5℃/km
11km~20km:0.0℃/km
20km~32km:+1℃/km
空気密度(海面上)1.225kg/m3
大気組成乾燥(水分を含まない)
地上重力加速度980.665cm/s2
表1 標準大気の仮想値

標準大気の知識と応用

高度(ft)高度(m)気圧(hPa)気圧(Hg)気温(℃)
30,0009,0003018.89-44
18,0005,50050614.94-20
10,0003,00069720.58-5
5,0001,50084324.905
2,00060094227.8211
1,00030097728.8613
001,01329.9215
表2 標準大気における高度、気圧、気温

標準大気における「高度」「気圧」「気温」の関係は、表2の通りです。この表から読み取れることは:

  • 高度が1,000ft上がるごとに、気温は-2℃ずつ下がっている
  • 高度が10m上昇するごとに、気圧は約1hPa減少している
  • 18,000ft (5,500m)の高度では、大気の重さは海面高度の約半分になる

です。ほぼ全てのパイロットは、フライト前に「出発地」「目的地」「代替空港」の気象条件だけでなく、その「エンルート」の気象状況も把握しようと努めます。その際に使われるのが、高層天気図です。

高層天気図読解への応用

高層天気図は、「850hPa」「700hPa」「500hPa」「300hPa」の面で切られて発表されます。

これを表2に当てはめてみると、それぞれ:

  • 「850hPa」≒「5,000ft(1,500m)」
  • 「700hPa」≒「10,000ft(3,000m)」
  • 「500hPa」≒「18,000ft(5,500m)」
  • 「300hPa」≒「30,000ft(9,000m)」

に相当していることが分かります。

実際にフライトをするとわかると思いますが、「hPa」や「m」で表記されているものを、「ft」換算できる能力は必須です。実際の飛行高度等はメートルではなくフィートで管理されていることが多いからです。(JCAB, FAA圏内)

「850hPa」は大体「5,000ft」のことを指していると頭の中で変換できると、高層天気図を見たとき、「どの高度」「フライトフェーズ」で悪天候が予想されるなどより具体的に飛行計画が立てられるようになります。

最低限、上記4つの高層天気図は使用頻度も高いので、「hPa」から「ft/m」への変換は頭に入れておいて損はないです。

私も、事業用操縦士の口述試験のウェザーブリーフィング中に、”300hPaの天気図を準備しているけど、何フィートぐらいの天気なの?”と質問をされたことがあります。

気象庁|数値予報天気図

フライトへの応用

標準大気の知識を、シミュレーションをしてみて、フライトへ応用してみましょう。

現在、5,000ftを雲中飛行しております。外気温度計を確認したところ、3℃を示しています。この時、気流が不安定の為か機体の揺れが激しくなってきました。そんな中、あなたがこのフライトのすべての権限(PIC)を持っているとしたら、どうしますか?

  1. 上昇して雲から出られるか試してみる
  2. 予備燃料を再計算し、迂回ルートを模索する
  3. 最寄り空港に着陸し、大気が安定するまで待ってみる

これだけの情報では、どれが正解かは決められませんが、もし選択肢①を選ぶ際は、「標準大気」の知識を応用してみてください。

5,000ftで飛行しているということは、おそらく東に向かってIFR飛行をしていると想像できます。

この時、「ATCに巡航高度を上げるリクエスト」を出したら、最低7,000ft以上が与えられるでしょう。(7,000ft, 9,000ft, 11,000ft, 13,000ft……)

「1,000ft上昇するごとに気温は2℃ずつ低下」すると学びました。2,000ft上昇すると、気温は約4℃低下すると考えられ、今の状況から”7,000ftの外気温度は-1℃程度だろう”と予想することができます。もうお分かりの通り、着氷に注意をしなければならない外気温です。

逆転層内を飛行している可能性もありますが、ここでは判断できません。高度変更前の外気温をしっかりと覚えておき、高度変更後の外気温と見比べることで判断することが可能です。逆転層とは、通常ならば高度の上昇に伴い、気温が低下する。しかし、逆転層内では、高度の上昇に伴い、気温が上昇する。逆転層が形成されると、その層内に存在する空気の上部に温かい空気があるため、大気中の温度が上がります。このため、逆転層の下にある空気が上昇することができず、霧やスモッグなどの汚染物質が逆転層内に閉じ込められ、大気汚染の原因となることがあります。また、逆転層の上には対流圏があり、航空機の揺れや天気予報の精度にも影響を与えることがあります。

上昇中の早い段階で雨雲から出られることが確実であれば、問題ないかもしれませんが、もし出られなかった際には「リフトの減少」「ドラッグの増加」など、飛行環境により悪い影響が出てきます。また、機体に防除氷装置が搭載されていることを事前に確認しておき、それらを使いこなす知識・事前準備も必要です。

このように、知識を貯めていくことで、自分の選択肢の根拠を持つことが出来るようになります。

標準大気に関する問題:筆記試験過去問(JCAB)より

ここまで標準大気の基本について学んできましたが、ここからは実際にJCABの筆記試験ではどのような問題が出題されているのか見ていきましょう。

例①) 令和4年11月期/自家用操縦士/航空気象/学科試験問題1より

この問題を解いていくうえで必要な知識は以下の通りです。

  • 海面高度(0ft)での気温は15℃
  • 高度1,000ft上昇するごとに気温は-2℃変化する

このことから、5,000ftの気温は海面高度より10℃(-2℃ x 5)下がるので、

15℃-10℃=5℃

と計算でき、「(1)5℃」が正答となります。

例②)令和2年7月期/自家用操縦士/航空気象/学科試験問題1より

これも例1と同じ知識で応用が出来ます。10,000ftなので、海面気温より20℃下がる(-2℃ x 10)と計算できるでしょう。よって、10,000ftに気温は、15℃-20℃=-5℃と計算でき、「(2)約ー5℃」が正しいといえます。

例③)令和3年11月期/自家用操縦士/航空気象/学科試験問題2より

これは、特に計算は必要なく、「知っているか・知らないか」の問題です。「1,000ft毎に2℃」変化すると知っていれば、「(3)2.0℃/1,000ft」を選択することが出来るでしょう。

例④)令和3年11月期/自家用操縦士/航空気象/学科試験問題3より

これも上記で触れたとおり、「hPa」から「ft」への変換が出来るかどうか問われています。

「850hPa≒5,000ft」なので、「(4)850hPa:3,000ft」が誤りと言えるでしょう。

例⑤)令和4年7月期/事業用操縦士/航空気象/学科試験問題2より

事業用操縦士レベルになると、「気圧」「高度」「気温」の関係性をすべて知っているか問われています。しかし、今回学んだことを生かせば、問題なく回答することが出来るでしょう。

「700hPa≒10,000ft」なので「(C)14,000ft」が間違いといえるでしょう。

よって、「(3)3」が正答です。

例⑥)令和5年1月期/事業用操縦士/航空気象/学科試験問題2より

この問題は、3段階の質問になっていることが分かります。

  1. 500hPaは何ftか知っていますか?
  2. 気温減率を知っていますか?
  3. 標準大気における海面温度を知っていますか?

①「500hPa≒18,000ft」②-2℃/1,000ft ③15℃

なので、15℃-(2℃x18)=-21℃ と計算することが出来ます。

よって、正答は「(3)ー21℃」となるでしょう。

「自家用操縦士」「事業用操縦士」「航空英語能力証明」「計器飛行証明」に興味がある方は、下記リンク先にて練習することが出来ます。
【過去問道場】航空従事者学科試験過去問練習

参考資料