飛行機のピトー・スタティックシステムの動作原理と重要性について:パイロットのためのガイド

「ピトー・スタティックシステムとは?」
「ピトー管・静圧口が詰まるとどの計器にどんな影響が出るの?」

パイロットの訓練をしていると耳にする「ピトー・スタティックシステム(Pitot-static system)」について、詳しく知りたいという方も多いと思います。

このシステムを利用した計器は、「対気速度計」「高度計」「昇降計」と、飛行する際に主要となる計器であることから、口頭試験や筆記試験でも問われることがあります。

そこで、この記事ではピトー・スタティックシステムについて、解説していきます。

【この記事を読むとわかる事】

▶ピトー・スタティックシステムの概要

▶ピトー管・静圧口が詰まったらどこにどういう影響が出て、パイロットとしてどうしたらいいのか
▶パイロットが過去に問われたピトー・スタティックシステムの知識
この記事を最後まで読むと「ピトー・スタティックシステム」の重要性を理解でき、問題が発生したときに適切な対処が出来るようになるはずです。
上空でこのシステムに不具合が発生したとき、パイロットとして適切に対処できるようになるためにも、ぜひ参考にしてみてください。

ピトー・スタティックシステム(Pitot-static system)の概要

ピトー・スタティックシステムは、「全圧」「静圧」「動圧」を利用する複合システムです。このシステムは「ベルヌーイの定理」を応用して作られています。

≫関連記事:「ニュートンの運動の法則」と「ベルヌーイの定理」の組み合わせによる航空機の飛行:パイロット必読の基本原理

これらの情報をもとに「対気速度計(ASI:Airspeed Indicator)」「高度計(Altimeter)」「昇降計(VSI:Vertical Seed Indicator)」の動作に影響を与えています。

図1. ピトー・スタティックシステムの概要

▶ 静圧:周囲圧力とも呼ばれ機体が止まっていても動いていても存在する。
▶ 動圧:機体が動いているときのみ存在する。風も影響する。
▶ 全圧:合計圧力とも呼ばれ、静圧と動圧の和

ピトー管の前方には「ラムエア」を取り込むための小さな開口部があり、「全圧」をシステム内に取り込むことが出来ます。後方にはドレインホールが設けられており、雨などの影響でピトー管内に侵入した水分をシステム外に排出することが出来る仕組みになっています。

ラムエア:航空機が前に進むことにより発生する空気の流れの事。

ピトー・スタティックシステムの誤作動

ピトー・スタティックシステムの誤作動の多くは、「ピトー管」「静圧口」または「その両方」が閉塞している場合発生します。閉塞は、「水分(氷を含む)」「汚れ」あるいは「昆虫」などが原因で発生する事が多いです。毎フライト前に、ピトー管と静圧口の開口部に汚れや詰まりが発生していないか確認する必要があります。

ピトー管の閉塞は「対気速度計」の精度に影響します。

ピトー管の閉塞

写真1. ダッチェスのピトー管

上記写真1.はビーチクラフト社の「ダッチェス」という機体のピトー管です。この鉛筆のように飛び出したピトー管の穴が閉塞すると、「対気速度計」に影響を与えます。

冒頭でもお伝えしましたが、ピトー管には2つの穴が開いています。

1. 進行方向正面の穴(ラムエアを取り込む穴)
2. ドレインホール(水分などを排出する穴|Drain hole)

「進行方向正面の穴」だけが詰まってしまった場合

ピトー管の詰まり
図2. ピトー管の詰まり

図2.は「進行方向正面の穴」がゴミなどで塞がってしまった状況を表しております。この影響により、このピトー管はラムエアをシステム内に取り込むことが出来なくなってしまいます。

対気速度計はピトー管から「全圧(動圧+静圧)」を取り込み、静圧口から「静圧」を取り込み、この2つの「静圧」を相殺する働きを利用しています。これにより、対気速度計には「動圧」が表示される仕組みです。

図2.の場合、「進行方向正面の穴」は塞がってしまいましたが「ドレインホール」は空いたままなので、ピトー管からの全圧はほぼ静圧と同じになります。なので、「動圧」はほぼ0になるため、飛行中でも対気速度計は0ktを示してしまいます。

「進行方向正面の穴」と「ドレインホール」の両方が詰まってしまった場合

ピトー管の詰まり_2
図3. ピトー管の詰まり2

図3.はピトー管から対気速度計へと向かう管の中で、何かの原因で管が詰まってしまった状況を表しております。これは、「進行方向正面の穴」と「ドレインホール」の両方の穴が同時に塞がってしまったと同じ状況であると言えます。

詰まっている箇所から対気速度計までの間は、ピトー管内の圧力は逃げ場を失い閉じ込められてしまいます。なので、加速や減速しても全圧は変化せず、高度が一定だと静圧も変化しません。よって、対気速度計は同じ値(詰まりが発生したときの速度)を指し続けます。

この状態で高度を変えた場合、全圧には変化がありませんが静圧の値が変わるため対気速度計は変化を表します。「図3.下部」のように上昇すると速度が増加したように示され、逆に降下したときに速度が低下したように対気速度計は誤作動してしまいます。

このメカニズムは、全圧はピトー管の詰まりが原因で一定ですが、機体が上昇すると外気圧は下がっていきます。つまり、静圧は低くなります。なので、機体が上昇すると、全圧と静圧の差は大きくなるため、対気速度計は実際よりも速い速度を表示しす。降下時は、その逆の現象が起きております。

ピトー管の閉塞の対処方法

ピトー管が詰まる主な原因は「水分(氷を含む)」「汚れ」「昆虫」などです。水分の多い雲中飛行をしていると、ピトー管などが凍り付いてしまうこともあります。これに対応するべく、多くのピトー管は電熱線(ピトーヒート)が取り付けられており、機内でON/OFFすることが出来ます(図1.参照)。

AFM/POHなどを参考に、摂氏何度以下の雲中飛行ならピトーヒートを使用するべきなのか確認しておきましょう。

万が一を考えてピトーヒートを常時ONにしておけばいいと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、ピトーヒートは氷を上空で溶かすほど加熱するパワーがあるので、地上でONにしてしまうとピトー管にダメージを与えてしまうことがあります。なので、外気温度が何度以下の時、使用可能など決められています。また、ピトーヒートをONにするという事は、ピトー管内の空気の温度が上がるので、対気速度計に誤差を生み出すことも頭に入れておくとよいでしょう。
「汚れ」や「昆虫」は、駐機中に発生することが多いです。なので、しばらく駐機する場合は、ピトー管にカバーを取り付け保護するようにしましょう。そして、出発前に必ずカバーを取り外すことを忘れないようにしなければなりません。

静圧口(スタティックポート)の閉塞

静圧口が閉塞すると以下3つの計器に影響を与えます。

1. 対気速度計
2. 高度計
3. 昇降計

1. 対気速度計への影響

静圧口の詰まり
図4. 静圧口の詰まり

ここでは、ピトー管は詰まっていないが静圧口が詰まってしまった場合を見ていきましょう。この場合は、対気速度計は動作しますが、静圧が変化しないため不正確な値になってしまいます。

静圧口が詰まってしまった高度よりも高い高度(より気圧の低いところ)に移動したとき、対気速度計は実際の速度よりも遅い速度が表示されます。降下すれば、その逆の現象が起こります。

2. 高度計への影響

静圧口が閉塞した際、高度計はその詰まりが発生した高度で凍結され、上昇・降下しても値は変わらなくなります。

3. 昇降計への影響

静圧口が閉塞した際、昇降計の値は0を示し、上昇・降下しても0のまま変わることはありません。

静圧口の閉塞への対処

一部の機体には静圧口が機体の左右に取り付けられ、バックアップが存在します。また、機内が与圧されていない小型機などは、コックピットにバックアップの静圧口が設けられていることもあるのでAFM/POHで確認してみましょう。

また、機内のバックアップ静圧口を使用する際、静圧の差が機体外部と内部で若干違う事が多いため、計器の動作に誤差が生じてしまいます(外部静圧より機内静圧の方が低くなっている事が多い)。

機体の周りを流れる空気のベンチュリ効果により、コックピット内の空気圧は外圧よりも低くなる。

飛行機のマニュアルをよく読み、誤差の補正有無を確認しておくとよいでしょう。

このようなバックアップ静圧口が装備されていない機体では、昇降計のガラス面を破壊することで、機内の静圧をピトー・スタティックシステムに提供することが出来ます。

昇降計

昇降計のガラス面を破壊するという事は、昇降計は動作不能になる可能性が高いです。「対気速度計」「高度計」「昇降計」の3つの計器の中で、昇降計が一番不必要な計器であると言えます。

なので、昇降計を犠牲にすることにより新たに静圧口を作り出し「対気速度計」と「高度計」の動作を回復させることが可能です。

この手段は、あくまで最終手段としておくとよいでしょう。

パイロットとして知っておくべきピトー管の知識

【過去問】令和5年3月期/事業用操縦士/航空工学/学科試験問題1

(b)と(d)が正しいと言えるので、正答は(2)となります。

【過去問】令和4年7月期/事業用操縦士/航空工学/学科試験問題17

(b)(c)(d)が正しいと言えるので、正答は(3)となります。

【過去問】出題状況

参考文献