リスクアセスメントできていますか?その手法をご紹介!
あなたは、リスクのレベル分けをする事ができていますか?
パイロットは多くの決断をしていかなければいけません。
特に緊急事態の時は、生死の決断をする重要な選択に、時間的猶予がない事もあります。
普段からより安全に飛行するためにも、リスクのレベル分けをする能力が必要です。
まずリスクのレベル分けをする能力を身につけ、それをもとに行動することで、より安全な飛行に近づけていけるでしょう。
それと、フライトにいくかどうか迷った時に、決断の後押しをしてくれるIMSAFEチェックリストを、最後にご紹介します。
リスクの評価
ある行動をすれば安全になるなどシンプルなものではなく、リスクはとても複雑なものです。
人は自分の判断基準で物事を判断します。
なので、周りの人が思うリスクと、その人が感じるリスクにズレが生じてしまいます。
例えば、16時間の長時間フライトを終えたばかりのパイロットに、フライトを継続するには疲れ果てたか聞くと、”いいえ”と答える人がいます。
多くのパイロットは、ゴールを意識してフライトをしています。
そのゴールを達成するためなら、個人的リミテーションを超えてくる傾向があります。
例えば、横風10ノット以上の着陸をした事がないので、10ノット以上の時には滑走路を変更するか、他の空港へダイバートしようと個人のリミテーションを設けたパイロットがいるとします。
そのパイロットに、家族が急病でどうしてもA空港に送っていって欲しいと依頼が来て、快諾したものの、目的地空港の横風が11ノットなら多少の風速は誤差の範囲と自分を騙して、着陸してしまう傾向があるという事です。
アメリカの事故調査委員会NTSB (National Transportation Safety Board)は、次のようなアクシデントリサーチを発表しています。
“夜間のVFRフライトの事故率は、フライトタイム100時間を超えるころには50%まで減り、その後飛行時間1,000時間程度まで減り続ける傾向がある。”
このリサーチをもとに、NTSBはフライトタイム500時間までは、個人のリミテーションを法律や会社のリミテーションより高く設定するべきだとアドバイスしております。
また、もし可能であれば夜間にIFRで飛行する事を勧めています。
世の中には、いくつかのリスク評価モデルが存在します。
それぞれ、リスクに対しての切り口が違いますが、目的は同じです。
リスクマトリックスが一般的に使われているツールの1つです。
これは、「イベントの可能性」と「イベントの激しさ」で判断します。
リスクマトリックス:イベントの可能性
どのぐらいの可能性で、そのイベントは発生するのか考える事が大切です。
その可能性は4段階に分けられており:
- Probable:引き起こる可能性が高い
- Occasional:時々引き起こる可能性がある
- Remote:引き起こる可能性は低いが、引き起こってもおかしくはない
- Improbable:引き起こる可能性が低い
です。
マージナルVFRの気象条件で、50km離れた空港に向かう予定のパイロットは、マージナルVFRからVMCに回復するのか、IMC(Instrument Meteorological Conditions)状態悪化するかどうか判断しなければいけまん。
他のパイロットに状況を聞いたり天気予報を確認したりして、どの程度の可能性でIMCになるか判断します。
必要ならばVFRフライトを諦め、IFRフライトに切り替えなければなりません。
リスクマトリックス:イベントの激しさ
イベントが引き起こる可能性を判断したら、次はそのイベントはどの程度の結果をもたらすのか判断します。
マージナルVFRで事故を引き起こしたら、機体は破損してしまい、パイロットや地上の人の命に関わるかもしれません。
イベントの激しさも4つに分類する事ができます。
- Catastrophic(破滅的な):死亡事故や全損事故など
- Critical:メジャーなダメージ、重症
- Marginal:マイナーなダメージ、マイナーな怪我
- Negligible:マイナーなダメージ以下、マイナーな怪我以下
上図のように、「イベントの可能性」を縦にとり、「イベントの激しさ」を横軸にとり、交わったところでリスクレベルが判断できます。
赤色が一番リスクが高く、オレンジ色、緑色と続き、白色がリスクが低いです。
もう少し、パイロットに特化した細かいリスク評価モデルがあります。
このモデルを使うと、健康状態、疲労、天候、能力などから、リスクレベルを判断する事ができます。
それぞれの点数を足していき、表の下段にあるリスクレベルのどこにあたるのかわかります。(左から右にかけてリスクが高くなっている)
リスクを緩和する
リスクの評価の仕方を2通り見てきましたが、単なる方程式のようなものでしかなく、リスクを緩和する行動に移さなければ何の効果も得られないでしょう。
先ほどの天気がマージナルVFRと微妙な中、50km離れたところに飛行機で行こうとしているパイロットが少しでもリスクを下げる方法は:
- VFRコンディションになるまで待つ
- 計器飛行証明を取得する
- フライトをキャンセルする
- 飛行機ではなく、車で行く
などがあげられるでしょう。
パイロットが実際にフライトに行くかどうか決断するのに役立つのが「IMSAFE Checklist」です。
IMSAFEチェックリスト
IMSAFEとは、I am Safeという意味が込められており、次の英単語の頭文字をとった言葉です。
- Illness:病気はしていませんか?病気にかかると普通に生活していても辛いのに、そんなコンディションでフライトをすると、とてもリスクなります。
- Medication:その薬はフライト前に飲んでも大丈夫?副作用で眠気や判断能力の低下になりませんか?
- Stress:家族の問題、健康問題、金銭トラブルなどで、大きなストレスを感じていませんか?ストレスレベルが高くなりすぎると、全体のパフォーマンスが下がったり、集中力が途切れてしまします。
- Alcohol:お酒の影響はありませんか?ビール1本や4オンスのワインを摂取しただけでも、操縦能力に影響が出ると言われています。2次元の動きをする車でも飲酒運転をすると事故を起こすのに、3次元の動きをする飛行機はリスクが高すぎるのは言うまでもありません。
- Fatigue:疲労困ぱいしていませんか?どのぐらい疲労が溜まったかわかりづらいですし、人と比べる事ができないのでわかりづらいですが、疲労がたまりすぎると人間はミスを犯しがちです。
- Emotion :感情的に動揺していませんか?(日本で使われている、IMSAFEチェックリストは、ここだけEating(食事)に書き換えられている事が多いです)
まとめ
人は人の役に立つ時に、幸福を感じると言われています。
しかし、人のために無理をして個人的なリミテーションを破ったり、無駄なリスクをとって事故を起こしてしまっては、相手は喜ばないでしょう。
いかに安全に飛行できるように、今日ご紹介した「リスク管理マトリックス」でリスクレベルを判断し、判断に迷ったら「IMSAFEチェックリスト」で決断の後押しをしてもらうといいでしょう。
【参考文献】
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