【リスクマネジメント】いつ5Pチェックを使えばいいのか?

【リスクマネジメント】いつ5Pチェックを使えばいいのか?

5Pは、5つの英単語の頭文字をとったもので、それらは「Plan」「Plane」「Pilot」「Passengers」「Programming」です。

これらは、フライトする上で必ずどれかはパイロットに関わる項目です。

この5つの項目とどう関わるかによって、リスクレベルが高くなるのか低くなるのか左右すると言っていいでしょう。

パイロットが何かを判断する状況の時や緊急事態が発生したときに、現在置かれている状況やリスクファクターを分析するときに使います。

世の中には、リスクマネジメントの資料がたくさんあります。

しかし、ある非公式のリサーチによると、その多くのリスクマネジメントの知識は、現場で使われる事がありません。

B747型機の機長である、杉江さんもご自身の著書でこう語っています。

CRMの考え方は正しいが、効果のあるものにするには今のままでは不十分である。CRMは「一般論」であり「総論」であり、乗務員が具体的にどうするかという「各論」「具体論」が含まれていない

出典:機長が語るヒューマン・エラーの真実

5Pチェックは、そんな机上の空論の知識を少しでも具体化できるように生み出されました。

今回は、5Pモデルはどんなもので、使うタイミングはいつなのかご紹介します。

5Pチェックとは?

プラン(Plan):

プランは、言い換えると「タスク」や「ミッション」とも言えるでしょう。

パイロットは、フライト毎に飛行ルート、高度、天気、搭載燃料などをプランニングする事でしょう。

このプランニングは、一度立てたら終わりではありません。

フライト中に何度か振り返り、予定通り進んでいるのか判断して、初めて役に立つものです。

「出発前の機材メンテナンスで出発が遅れた」「天気の変化が予定よりも早まりそうだ」など、プランは立てたら終わりではなく、途中で何度もアップデートして、ミッションを達成するために役立てます。

機体(Plane):

機体や装備品の進化は進みます。

米国では全ての機体にADS-B搭載が義務化されたりと、一昔前にはなかったシステムが導入されています。

新しい機械の導入により、「データベース」「オートメーション」「緊急時のバックアップシステム」「FMS」など、今までになかった知識が求められるようになりました。

オートパイロットが装備されている機体で、使用するかどうかはパイロットに任されていますが、使用するにはまず使い方を知らなければなりません。

また、使用しないという選択肢もありますが、小型機でパイロットが一人で操縦する環境で、天気がLanding Minimaギリギリの状況になると、パイロットのワークロードはとても高くなります。

そんな状況の中で、オートパイロットの力を借りないという選択肢は、はたして本当にベストと言えるのでしょうか。

パイロット(Pilot):

エアラインパイロットは、「高高度飛行」「長い飛行時間」「厳しい天候条件」など、リスクが伴います。

より良い装備や機体が開発されれば、より厳しい条件での飛行が求められます。

厳しい状況を耐え抜く体力や、健康な体の維持が必要不可欠です。

自分の状態を判断する目安として、IMSAFEチェックリストを参考にするといいでしょう。

「夜遅い時間帯」「疲労」「高度5,000ft以上」などのフライト条件が揃うと、パイロットは普段よりリスクを許容する傾向にあります。

4時間以上のフライトをしてきて、目的地の天候がい中の夜中のアプローチを強いられる時は、精神的にも肉体的にもヘトヘトになっていることでしょう。

今までスムーズにフライトしてきたのでだから、このまま着陸までうまく行くはずと思いがちです。

そこには根拠がなく、最後の最後でマイクロバーストにより、地面に叩きつけられる可能性も十分あるでしょう。

リスクレベルを判断する事ができていれば、疲れている中でも正しい決断が行える可能性が高まります。

乗客(Passengers):

CRM(Crew Resource Management)とSRM(Single-pilot Resource Management)の違いは、乗客との関わり方です。

多くのエアラインなどは、客室乗務員を用意してコックピットドアは閉められています。

しかし、小型機などにはコックピットドアなど存在しなかったり、客室乗務員すらいないのでパイロットが全ての業務を行います。

乗客の様子が手に取るようにわかるのはメリットでもあり、デメリットでもあるでしょう。
乗客に何かあった際などには、すぐに状況認識ができるのはいい反面、大事なビジネスミーティングに遅れそうで苛立っている様子もパイロットに伝わります。

そんな中で、平然と「Missed Approach」「Go Around」「Divert」できる人が何人いるのでしょうか。

少なからず、パイロットの気持ちに影響を与えてしまう事でしょう。

さらに、乗客がパイロットよりも権力者などで、フライトに口出しをしてきたら、誰がPICなのかわからなくなってしまい、混乱は避けられなくなります。

プロのパイロットだけができるリスク回避の判断を、一般乗客が理解できない可能性もあります。

特に、パイロットが一人のフライトはリスクと隣り合わせです。

なので、SRMではリスクを排除することはできないので、いかにうまくリスクマネジメントするかを教えています。

乗客が夜間の小型飛行機でのフライトに怯えているようであれば、上空でパニックになる前に、地上でエアラインのチケットを購入する事を勧めたり、地上の交通機関を勧める事で、リスクマネジメントができるでしょう。

乗客も、パイロットに指示されて降機するより、他の交通機関を利用するために自分で納得して降機した方が気持ちがいい事でしょう。

プログラミング(Programming):

最近では、新しい機器が次々と開発され、今までの飛行機の常識を変えつつあります。

NDBで飛行していた頃から、VORになり、今ではGPSが当たり前の時代です。

オートパイロットの開発も進み、パイロットの「状況認識力」の向上もさけばれています。

しかし、オートパイロットに全てを任せておけばいいというものではありません。

まだオートパイロットも完璧ではないので、いつエラーが起きるかわかりません。

なので、パイロットにモニタリング能力が求められています。

今の状況に対して、どのようなオートパイロットのモードを使用したらベストなのか判断したり、オートパイロットが誤作動していないのかなどモニターしなければいけません。

昔のように、パイロットは操縦桿を握る腕が命ではなくなったため、機械のプログラミングを理解し、この状況ではどのように動くのか知識がないと、機械をモニタリングすることはできないでしょう。

FMSの開発により、飛行ルートや高度の制限、速度制限などが一眼でわかるようになりました。

便利な一方、飛行機のプログラミングを作っている会社がいくつかあり、作りが統一されていないのでそれぞれのプログラミング方法を学ぶ必要があります。

パイロットが判断するポイント

具体的にどこでパイロットは決断を迫られるかというと、「出発前」「離陸前」「フライトの中間地点」「降下開始前」「FAF手前」「VFR飛行時」などです。

フライトを取り巻く状況は変化するので、それに合わせてパイロットは決断をしなければいけません。

出発前

一番フライトをキャンセルすのに簡単なポイントは、乗客や荷物を積み込み始める前にキャンセルする事です。

前日から、天気が悪くなるのがわかっていれば、事前に通知しておく事で、誰もわざわざ空港に足を運ぶ必要もなくなります。

ブリーフィングルームで、フライトコンディションを判断し、リスクはどのぐらいなら許容されるのか目安をもっておき、出発前のプランニングの段階でフライトをするのか、しないのか、出発を遅らせたり他にいい方法はないのか判断します。

離陸前

次に来る決断ポイントは、離陸直前までの段階です。

5Pチェックは、パイロットに正しい状況認識能力を与え、その情報の分析のもとに正しい判断をさせるためのものです。

多くのパイロットは、緊急離陸を経験したことはないでしょう。

なので、一度出発すると決めたのであれば、出発しようと気持ちが固まってしまいます。

飛行機の準備を整え、乗客も乗せ、離陸の準備が全て整ったときにフライトをキャンセルするのは難しいかも知れません。

多くの人が、ここまで来たのだから出発してしまおうという気持ちになりがちだからです。

出発前に判断した状況から変化しても、気持ちは出発したい方向に傾いているので、多少のことなら大丈夫だと思ってしまう傾向にあります。

しかし、そうならないためにも出発前に、本当にこのまま離陸してしまっていいのか考える時間を作る事が大切です。

毎回「出発しないで引き返す」という選択肢があるという事を、必ず思い出すようにしましょう。

フライトの中間地点

出発してしまったら次に判断するポイントは、フライトの中間あたりになるでしょう。

この頃、パイロットは目的地空港の天気が気になっている事でしょう。

ATISの電波到達距離まで待っていたり、ACARSで目的地の天気を入手している頃かもしれないです。

気持ちはすでに目的地空港に向かっているので、現状がおろそかになりがちです。

より良い選択肢が、さっき通過してきたところにあったのかもしれません。

また、出発前の準備から離陸で集中力を使い、疲れが出てきている頃かも知れないです。

このような状況の変化により、パイロットは「決断モード」から「許容モード」になってしまいがちです。

安全に目的地に行けるのかどうかを判断するのではなく、多少のことはいいから無事に目的地についてくれと願う気持ちです。

多くの人は、もうフライトの半分終わってしまっているので、ここまで来たらなんとか目的地につきたいと思ってしまうものです。

フライトが2時間以上あるときは、1時間おきにこのような気持ちになっていないか、自分自身の気持ちの変化をチェックするといいでしょう。

降下開始前、FAF手前、VFR飛行時

多くのパイロットは、降下を開始するということは、その先には着陸をする事を予期しています。

よっぽど目的地の天気が悪い時でないと、「Missed Approach」「Go Around」「Divert」を予期するパイロットは少ないのではないでしょうか。

この段階でも一度落ち着き、それらの手段が残っている事を再確認し、本当に着陸する事がベストな判断なのか自問自答するといいでしょう。

これをすることにより、より細かくフライト状況に目を配る事ができ、より広い視野で状況認識する事ができるようになります。

目的地に着陸できないことも想定して、アプローチ中の燃料をセーブしておこうと先々を考えた行動も取れるようになるのです。

まとめ

パイロットは、毎回正しく決断する能力が求められます。

しかし、それがいかに大変で難しい事なのか痛感する事でしょう。

環境や状況が刻一刻と変化するので、それに対応しなければなりません。

与えられたミッションを無事にコンプリートさせるために、絶えずプランをアップデートし続けなければいけないです。

間違った決断も決断です。

決断に迷ってしまい、何も決められないのも決断です。

また、総合的に判断して、あえてプラン通りに行くのも決断でしょう。

本当に自分が一番最適だと思う行動を取れるように、今回ご紹介した5Pモデルを各フェーズごとに思い出して、判断する際の手助けになれば幸いです。

 

【参考文献】