【リスクマネジメント】PAVEチェックリストを知っている?
リスクやハザードを見える化することは大切です。
得体の知れないものに対しては、対処方法や回避する事ができないからです。
前回リスクの評価方法や「IMSAFEチェックリスト」を使って、リスクを軽減する方法をご紹介しました。
今回は、「PAVEチェックリスト」を使ってリスクを軽減する方法をご紹介します。
PAVEチェックリストを使うと、フライト前に毎回リスクを確認する事ができます。
パーソナルミニマ
リスクの評価を行ったら、それが自分にとって安全にマネジメントできるのかどうか考えて、リスクをとるかどうか判断する事でしょう。
もし、自分にはリスクが高すぎると判断したらならば、他の方法を模索したり、フライトをキャンセルする勇気も必要です。
パイロットは毎回のフライト前に、リスクの評価と決断を行います。
もし、何か判断するためのフォーマットを用意しておき、それにそってフライトするかどうか決める事ができれば、その日の気持ちや体調に左右されたり迷ったりする事なく、毎回正しい判断をする事ができるでしょう。
また、自分の限界をあらかじめ把握しておくことも大切です。
この自分の限界を、航空業界では「パーソナルミニマム」、または複数形で「パーソナルミニマ」を設定すると言います。
多くの場合、法律は守るべきギリギリのラインなので、法律上飛行可能な天気は新人パイロットにはリスクが高すぎる事があります。
法律よりも厳しい条件でパーソナルミニマを設定する事で、よりリスクを回避する事ができるでしょう。
しかし、エアラインパイロットなどはプロとしてフライトをする以上、飛べる天気で飛ばないと商売として稼ぐ事ができないという考え方があります。
法律上飛行できるのに、パーソナルミニマを切っているので、フライトをキャンセルするというプロパイロットを見た事がありません。
これは、法律のミニマム以上のスキルを手に入れるために、日頃からの訓練や自己鍛錬している結果でしょう。
なので、フライト訓練の始めの頃やまだ経験が浅い頃は、プロパイロットを真似するのではなく、パーソナルミニマを設定する事が大切です。
スキルはすぐにつくものではないので、少しずつでもパーソナルミニマの許容範囲を広げる訓練を日々積み重ねる事が重要です。
最悪命に関わる事なので、ゆっくりと焦る必要はないでしょう。
最近では、フライトシミュレーターの存在感が増してきており、安全な環境でより厳しいトレーニングを積む事ができるようになりました。
「法律的に可能」と「安全」とは、イコールの関係ではないことを認識する必要があります。
法律的にフライト可能であるからといって、スキルがなければ安全である保証はどこにもないのです。
PAVEチェックリスト
PAVEチェックリストを使うことにより、フライトのリスクを4つに分類する事ができます。
これらは、プレフライトの時に確認する事で、本当にフライトに行くかどうか決断するときに役立ちます。
それでは、それぞれ4つの項目と、その中身を見ていきましょう。
PIC (Pilot In Command|操縦最高責任者):
フライト中のリスク要素に、パイロットが含まれます。
「自分は本当にフライトの準備ができているのか?」と自問自答する事が必要です。
IMSAFEチェックリストを使う事で、PICのコンディションをチェックする事ができます。
Aircraft(飛行機):
そのフライトで、運用限界に引っかかりそうなフェーズはありませんか?
次のような質問をするといいでしょう:
- このフライトにはこの飛行機で事足りるのか?
- この機体と自分の相性はどうか?(過去の経験や機体のパフォーマンスなど)
- 装備品は必要十分か?(無線機、計器、ライトなど)
- 離着陸空港に対して、機体の使用滑走路長は十分で安全マージンもあるか?
- 積載物の重さに対して許容できる機体なのか?
- 山越えの時の最低安全高度など、必要な高度まで上昇する能力があるのか?
- 燃料のキャパシティはどのぐらいあり、それは足りるのか?
- リクエストした燃料量と、実際に機体に入った燃料量はマッチしているのか?
enViroment(環境):
天気
環境項目の大部分をしめるのが、天気です。
パーソナルミニマをセッティングする上でも、懸念材料となるでしょう。
- 雲底と視程はどのぐらい?(初めて行く空港など地形に慣れていないなら、より高い雲底や視程の時がいいでしょう)
- 天気予報が外れた時、どのような状況になる可能性があるのか?(回避ルートなどを設定しておくといいでしょう)
- 使用滑走路に対しての風向風速と横風成分はどのぐらいか?
山越えする時は、風がタービュランスを発生するので、関連する高度の風向風速はどうか? - 嵐は発生しているのか?予想されているのか?
- 雲があるなら、着氷気象状態か?(飛行高度の気温はどうか?着氷したら高度を下げても山などはないか?)
- 機体は着氷気象状態に対応できるのか?(装備やメンテナンス状況、どの程度の着氷に耐えられるのか?)
地形
- VFRやIFRチャートを使い、どの高度で飛行すれば安全が保証されているのか?(特に夜間や視程が悪い時)
- チャートでMEFs(Maximum Elevation Figures)などを使用して、そのエリアの一番高い障害物の高度を把握できているのか?
空港
- どんなライティングが使用可能なのか?(RWY Light/PAPIなど)
- NOTAMで、何か不具合やイベントが報告されていないか?
- 空港の近くでエンジン故障したら、どのような飛行ルートで障害物を回避できるのか?
- 滑走路手前に障害物があったり、滑走路長はどうか?
空域
- 隔離されたエリアを飛行する時、サバイバルキット、水、食べ物などは十分か?
- 夜間の水上飛行や真っ暗なエリアを飛行する際は、水平線が目視できないので、計器飛行証明を取得しているのか?
- 飛行禁止区域ではないか?TFRs(Temporary Flight Restriction)は発令されていない?
夜間
- 緊急着陸する場所は見えるのか?(電線など含め、その辺りの地形を把握しているのか?)
- 飛行機のライティングをチェックしたのか?(機体外側と内側のライティング、懐中電灯を2つ用意:外部点検用の大きいやつと、コックピットで使う小さいやつ)
External pressures(外的プレッシャー):
外部からのプレッシャーは、決断を左右してしまう大きな要素です。
そのプレッシャーの一部は:
- 空港で誰かが乗客の到着を待ちわびている
- フライトをキャンセルしたりダイバートして、乗客の期待を裏切ってしまう
- 誰かに自分の操縦技術を見せつけたい衝動
- 事前に決めた自分のミッションを絶対に達成したい願望
- 予定通りに着陸して、予定通りのフライトをコンプリートさせたい願望
外的プレッシャーのコントロール
外的プレッシャーのコントロールは、リスクマネジメントにとって最も重要な事であると言えるでしょう。
外的プレッシャーが重くのしかかってくると、他の3つの項目を無視してまでも、目標を達成しようとする傾向があるからです。
特に、時間に縛られたプレッシャーが事故を誘発しています。
次の方法により、外的プレッシャーをはねのける事ができるでしょう:
- 給油の時間をあえて作ったり、天気が悪い時に躊躇せず他の空港に向かう
- 到着が遅れた時の代替プランを用意したり、鉄道など他の機関の利用も視野に入れる
- 本当に重要な輸送であれば、少し早めに出発して、他の空港にダイバートしてしまっても、車で移動しても間に合うようにしておく
- 到着するのが遅れるという連絡を、現地で待っている人にする方法を考えておく
- 事前に乗客に目的地に到着できないかも知れないと伝えておき、その機体に本当に乗るか選択肢を与えたり、到着が遅れたりダイバートしたらどのような交通機関があるのか、代替プランを持たせる
- 飛行機で目的地に行ったり家に帰ったりしなくとも、どこかの空港の施設やホテルで泊まってもいいように最低限の着替えなどを用意しておく。
外的プレッシャーのコントロールで一番大切なのは、遅延やダイバートなどに事前に準備して、受け入れられる体制を整えておく事です。
まとめ
PAVEチェックリストを使うことにより、毎回フライト前に何を確認したらいいのか迷う事がなくなるでしょう。
そして、自分のリスクマネジメント能力がそのフライトの考えられること全てに対して十分であるか判断できたら、出発するようにしましょう。
乗客の気持ちを考えて事故を起こすよりも、時間がかかっても他の交通機関を利用する方が賢明です。
パイロットの仕事は、リスクマネジメントする事であって、ハザードを作り出す事ではないです。
最後にもう一度、法律的にフライト可能であるからといって、安全である保証は一切ないのです。
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【参考文献】
Pilot’s Handbook of Aeronautical Knowledge (PHAK) – CH2
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