【飛行機のエンジン】スラストリバーサー(逆噴射装置)について

【飛行機のエンジン】スラストリバーサー(逆噴射装置)について

ジェット機のランディングロール中には、その「機体重量」や「速度」が影響して、慣性力が大きくなります。ジェット機では前輪接地後も抵抗が小さく、スラストレバー(スロットル)を最大まで絞ってもなお、エンジンから推進力が生み出されて続けているため、慣性力を小さくすることが難しいです。

車輪につけられたブレーキが原則の主装置ですが、スラストリバーサー(逆噴射装置)が利用可能なジェットエンジンでは、原則の補助として利用することが可能です。

Target or Clamshell Reverser

特定の逆噴射装置は、上図のようにジェットエンジンの排気を前方に吐き出すようにし作用します。上図のように、エンジン後部にある蓋のようなものが、排気流を前方約45°に向け折り返すように開きます(すべての排気を前方に送るわけではないです)。

スラストレバーをリバースに入れたからといって、決してエンジンが逆回転を始めるわけではありません。

より多くの排気流があれば、より多くの気流を前方に送れるためジェットエンジンでは「スラストリバース」にしたときに、アイドル回転より少しエンジンを自動的にふかすようになっています。これにより、効率的に減速を行うことが出来ます。

スラストリーバーサーの分類

ジェットエンジンの逆噴射装置は、大きく分けて2つに分類できます。

①ターゲットリバーサー(Target or Clamshell Reverser)
②カスケードリバーサー(Cascade Reverser)

①ターゲットリバーサー(Target or Clamshell Reverser)

「ターゲットリバーサー」別名「クラムシェルリバーサー」は、上図のようにエンジン後部が「二枚貝」のように開き、排気流を前方に送る形をとっています。

Clamshell:二枚貝の貝殻、二つ折りの、観音開き式の、折り畳み式の

②カスケードリバーサー(Cascade Reverser)

「カスケードリバーサー」は、主にターボファンエンジンに搭載されているタイプで、エンジンのカバーが後方に移動することにより、ファンが作り出す推力を前方に折り返しています。

Cascade Reverser

上図のように、エンジンカバー(シュラウド)内をドアでファンからの気流をせき止めることにより、前方に気流が流れる仕組みです。

スラストリバーサーの操作

ほとんどのスラストリバーサーは、パイロットはスラストレバーをアイドルにしてから、逆噴射を選択するためにリバースレバーを引く仕組みになっています。これにより、逆噴射機構は作動しますが、エンジンはアイドル回転数のままです。この状態をアイドルリバース(Idle Reverse)と呼びます。

Idle ReverseとFull Reverse

リバースレバーをさらに引き上げ後方に移動すると、エンジンの出力が増加します。この状態のことをフルリバース(Full Reverse)と呼びます。

逆噴射の力は「アイドルリバース」よりも「フルリバース」の方が大きくなります。

ちなみに、プロペラ機のアイドルリバースは、フルリバースの約60%も出ており、多くの場合はフルリバースをしなくても十分なリバース効果が得られますが、ジェット機ではアイドルリバースの効果は小さいので、フルリバースを使う機会が多いです。

スラストリバーサーの効果は、より高速で機体が移動しているときにより大きな効果が発揮されます。なので、パイロットはタッチダウン後のなるべく早い段階でスラストリバーサーを使用するべきでしょう。

通常、飛行機が接地したら「スポイラー」が立ち上がり「スラストリバーサー」が使用されます。これらにより、接地後一時的に機首上げ傾向になり、再度空中に戻ってしまう機体もあるので注意が必要です。このような傾向がある機体を操縦するときは、機首を完全に地面につけてからスラストリバーサーを使用するようにするとより安全です。

機首上げの傾向がない機体は、メインギアが接地したと同時に(前輪接地前に)スラストリバーサーを使用し始めても問題ありません。より早い段階で使用することにより、より高い効果が得られますし、ブレーキへの負荷も軽減することが出来ます。

滑走路面に雪が積もっているときなどは、スラストリバーサーの使用により方向の維持が難しくなる時もありますので、それぞれの機体の取扱説明書(AFM)などを熟読しておきましょう。

スラストリバーサーを使用する上での注意点

パイロットは、スラストリバーサーを使用する上で、通常の使用方法からリミテーションまで熟知しておく必要があります。

理論上、スラストリバーサーで「減速→停止→バック」が可能ですが、フルリバースにすると滑走路のゴミや小石なども巻き上げてしまい、それをエンジンで吸い込んでしまう可能性もあるので、ある一定以下の速度では使ってはいけないと決められています。

また、過去の事例として、ショートファイナル中にスラストリバーサーを発動してしまい、機体が失速したことにり地面にたたきつけられ、乗客乗員が命を落とす事故も発生しております。

ちなみに、リバーサーの上空での使用は禁止されていますし、リバーサーを使用したらゴーアラウンドはしてはいけません。詳しいリミテーションは、それぞれの機体のマニュアルを参考にすると良いでしょう。

このような事故からの経験により、現在では、より多くの「フェールセーフ機構(安全機構)」が搭載され、メインギアが接地しないとスラストをリバースに入れても、実際にリバーサーが発動しないように等対策が取られています。

パイロットとして事前にしっかりとした知識を入れ、実際に操作するときも慌てずにしっかりと行うべき時に行うべき行動をとるように心がけましょう。

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参考文献