【有効意識時間】TUCについて知っていますか?

有効意識時間とは?
有効意識時間とは、英語で(TUC:Time of Useful Consciousness)とも呼ばれ、意識を保っていられる時間のことを指します。
上空に行けば行くほど空気圧が低くなり、呼吸がしづらくなるのはご存知のことかと思います。
高い山に登ると起きる高山病も、これが原因です。
日本で一番高い山、富士山でも3,776m(12,388ft)なのに対して、旅客機は約11,000m (36,000ft)を飛行するなど3倍近く高いところを飛行しています。
通常だと、機内は与圧され6,000ft〜8,000ft (1,800m〜2,500m)程度の高度にいるのと同じ環境が整えられています。
しかし、この与圧システムが故障してしまったり、機体にダメージを受けて穴やひび割れなどを起こしてしまうと、与圧していた空気が一気に機外へ抜け出てしまいます。
与圧がなくなると、呼吸がしづらくなり、最悪意識を失って死に至ってしまいます。
この意識を保てる時間は、個人差がありますが、だいたい高度でどのぐらい有効意識時間があるのかデータが出されています。
乗員の健康管理サーキュラーの情報によりますと:
【有効意識時間】
気圧高度 | 有効意識時間 |
50,000ft | 10秒 |
40,000ft | 30秒 |
35,000ft | 45秒 |
30,000ft | 90秒 |
25,000ft | 2~3分 |
22,000ft | 5~10分 |
10,000ft ~ 15,000ft | 1時間以内 |
1時間以上のフライトの旅客機は、35,000ft~40,000ftぐらいの高度を飛行している機体が多いので、急減圧になった時には1分もしないうちに気を失ってしまいます。
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この高度と時間はあくまでも目安で、個人差があるので一概には言えません。
さらに、この有効意識時間を短くするものが、喫煙です。
タバコに含まれる一酸化炭素が、血中のヘモグロビンと強く結びつくため、喫煙を全くしない人にとっての10,000ftは、喫煙者の5,000ftと同じだそうです。
タバコの副作用は、こういう面でも現れるようです。
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症状
目安ではありますが、有効意識時間以内に酸素マスクなどをつけないと意識を失って、自分では酸素マスクをつけたり、意識を保って体を動かすことが難しくなります。
急減圧になると、体に出てくる症状があります。
それを知っておくと、少しでも早く機内の減圧に気がつくことができるでしょう。
【自覚症状】
- 熱っぽい感じ
- 疲労感
- 視力低下
- 人格変化
- 判断力低下
- 言語能力低下
- 呼吸・心拍数増加
- チアノーゼ
- 痙攣
- 意識障害
【他覚症状】
- 人格変化
- 判断力低下
- 言語能力低下
- 呼吸数の増加
- チアノーゼ
- 反応時間の増加
- 痙攣
- 意識障害
自分で少しおかしいなと思った時や、隣に座っている人がこれらに当てはまる時は、機内の気圧高度計に目を向けてみたり、必要ならば酸素100%の航空機用酸素を吸引しましょう。
両操縦士が意識を失ってからでは遅いので、少しでもおかしいなと思った際には酸素マスクをつけてから、トラブルシューティングをするようにするといいでしょう。
対応策
2005年8月に起きた「ヘリオス航空522便墜落事故」など、過去には与圧システムのトラブルで事故が起きています。
このように、機内の与圧のトラブルは、最悪墜落を招きかねないとても怖いものです。
このような事故を起こさないように、過去の事例から学び現在では多くの対応策が行われております。
【酸素マスクの着用】
現在の旅客機は2名体制で運航がされています。
トイレに行く行為は、生理現象なので止めることができないです。
もし、25,000ft以上を飛行している際に、片方の操縦士がトイレに立つ時は、残るもう片方の操縦士は急減圧などに備え酸素マスクを着用する決まりになっています。
酸素マスクさえつけておけば、減圧後30秒などで意識を失うことがないので、対応する時間的猶予が残されます。
【Emergency Descentの手順】
急減圧になった際には、「Memory Item」で「Emergency Descent」を行う手順になっています。
乗客の酸素マスクは約15分間有効なので、それまでに安全とされる10,000ft以下に降下する手順になっています。
「Emergency Descent」の手順の中で、一番初めに行うのが「酸素マスクをつけること (Mask On)」になっているのです。
【警報装置】
タービンエンジン機の与圧は、エンジンから圧縮した空気をある程度冷ましてから、機内の与圧や空調に使っています。
小型機などに使われている、ピストンエンジンで高高度飛行する時は、(1) 操縦士などが酸素マスクをつけるか、(2)ターボチャージャーというシステムが1〜2つ付けられており、それにより機内を与圧するシステムになっています。
与圧システムと警報装置が一緒になっているものが多いようです。
エアバスA320の機体では、キャビンプレッシャーがモニターされており、ある一定以上になると警報が鳴ったり、酸素マスクが自動的に落ちてくる仕組みになっています。
- 9,550ft ±350ft以上:EXCESS CAB ALT 警報が鳴る
- 14,000ft以上:乗客の酸素マスクが自動的に落ちてくる
まとめ
急減圧発生時などは、比較的すぐに対応しないと、機内全ての人が意識を失って飛行機を操縦する人がいなくなってしまいます。
旅客機には警報装置がつけられていたり、酸素マスクの準備があります。
小型機では、警報装置がついてない場合もあるので、その際には体に現れる症状が少しでも当てはまるのであれば、高度を下げたり酸素マスクを着用するようにしましょう。
少しでも早い行動が生死の境目です。
今回は、有効意識時間についてご紹介しました。
【参考文献】