【後方乱気流】翼端渦流の恐怖を知り安全な飛行を心がける!
どのように作り出されるのか?
全ての飛行機は、飛行中ウェイクタービュランスを作り出しています。
飛行機の翼は、翼上面と下面で気圧の差を生み出してリフトを生み出しています。
翼上面の方が下面と比べて、気圧が低くなっているので、翼は上にひっぱられようとします。
そして、翼につながっている胴体ごと飛行機は、浮き上がることができるのです。
空気は気圧が高い方から低い方へ流れる性質があります。
なので、翼の先端では下から上へ空気が流れています。それが渦を作り、ときには恐ろしい事故の原因となるのです。
この図のように、左側の翼では空気は時計回り、右側では反時計回りに渦ができます。
このことを英語ではWingtip Vortex、日本語では翼端渦流と言います。
また、後続機に悪い影響を与えるので後方乱気流とも呼ばれております。
重さとの関係性
翼端渦流は、作り出す飛行機の重さによって変わってきます。
より重たい飛行機の方が、より大きくて強い翼端渦流を発生させます。
何故なら、重たい飛行機の翼の方がそれだけ大きな気圧の差を生み出し、リフトを作り出しているからです。
もし、この渦の中に飛行機が入ってしまったらどうなってしまうのでしょうか。
それは、気流によって飛行機は無理やりロールさせられてしまうのです。
この図のように、どちらの翼端渦流に入るかによって、飛行機がどちらにロールされるかは変わってきまます。
図のように、左側の翼端渦流に入ってしまった飛行機は、右に大きくロールさせられてしまいます。
そして、この翼端渦流のロールさせる力が、飛行機のエルロンが元に戻す力を超えてしまったら、飛行機は水平飛行に戻ることができません。
大きく強い翼端渦流に小型機が入ってしまうと、エルロンの力を超えてしまい、飛行機が天地逆転してしまうことも考えられます。
なぜなら、より小型の飛行機のウィングスパンは短いです。
翼が短くなってしまえば、エルロンはより胴体に近いところに取り付けられます。
テコの原理で、距離が短くなれば力が弱まってしまうため、小型(ウィングスパンの短い)の機体の方が、エルロンの力が弱くなるでしょう。
こうなってしまった時の解決方法は、翼端渦流が弱まるか、翼端渦流から脱出するしか方法がありません。
たとえ、その渦の中に機体が入らず、ちょうど間を飛行したとてしても、翼に乱気流がぶつかり機体が大きく振動させられます。
二つの渦流の影響で、最悪機体が地面に叩きつけられることもあります。
より強い翼端渦流が生み出される条件
先ほども少し触れましたが、翼端渦流は次の3つの条件によってその強さが変わってきます。
その3つは、重さ、飛行速度、翼の形やスパンです。
- 重さ:飛行機が重たければ重たいほど、翼端渦流は強くなります。
- 飛行速度:飛行機がより遅くなればなるほど、翼端渦流は強くなる傾向があります。
- 翼の形やスパン:翼の形はテーパー翼や矩形翼など色々とありますが、旅客機は高速で飛行するためテーパー翼が採用されています。多少の違いはありますが、ほぼ同じような形をしております。しかし、翼の形を変えるものが1つあります。それは、フラップです。フラップを引っ込めている方が、翼端渦流が強くなる傾向があります。
この3つの条件を簡単に覚える方法は、「Heavy-Slow-Clean」です。飛行機が、重たくて、遅くて、フラップやギアを下ろしていないクリーンな状況の時、翼端渦流は強くなるのです。
この3つの条件が揃う時は、 離陸でしょうか? 着陸でしょうか?
答えは、離陸です。着陸の時にはフラップをより深く使っていますし、燃料を消費しているので飛行機は軽くなっています。
水平飛行中の翼端渦流
先ほどの3つの条件を満たしていなくても、翼端渦流は飛行機がリフトを生み出している限り発生します。
なので、高速で飛行している水平飛行中でも翼端渦流はその後ろに発生しているのです。
この図は、その翼端渦流の影響を受ける範囲を表しております。
飛行機の後方約5マイルまで影響が残っているのです。
そして、翼端渦流は500~900ft下方に沈み込む傾向があります。
西行きと東行きで飛行機がすれ違う時は、一番近くで1,000ftのセパレーションがありますが、もし下降気流などの影響がある時には、飛行機が翼端渦流の影響を受け、大きな揺れを感じることがあり得ます。
また、ルートが輻輳している空港周辺では、降下経路が重なってしまい、思わぬところで飛行機が大きく揺れることも考えられます。
無風時の翼端渦流の動き
この図は、翼端渦流を後ろから見た図です。翼端渦流がある程度地面に近づくと、渦流が地面の影響を受け左右に広がっていきます。
左の翼端渦流は左側に、右側の翼端渦流は右側に移動していきます。
その高さの目安は、対地100~200ftもしくは、ウィングスパンの約半分の高さ以下になった時です。
その移動速度は、2〜3ノット程度です。
なので、ある程度時間を置くと無風時では両方の渦流が滑走路の外に出て行こうとするので、後続機への影響はなくなります。
風の影響
翼端渦流は、風の影響を受けます。
風を受けると、風上から風下に流されるという性質があります。
翼端渦流はリフトを生み出している限り発生するので、先行機のタッチダウンポイントまで発生していると言えます。
上図のように、向かって左側から風が吹いていると翼端渦流は右側の風下に流れていきます。
風下側にある翼端渦流は滑走路の外に出ていきますが、風上側の翼端渦流が滑走路にかかり、影響を与えることがあります。
さらに、平行滑走路がとても近いところ(2,500ft以下など)にあったら、自分の使用している滑走路の先行機ではなく、隣の滑走路の先行機の翼端渦流の影響を受けることも懸念しなければなりません。
風の強さと向き
翼端渦流は風の影響を受けることがわかりました。
では、どの程度の風の強さで注意が必要なのでしょうか?
下の図は、横風3ノットの時と6ノットの時の影響を示した図です。
先ほどの通り、翼端渦流は左右に約2~3ノットの速度で広がろうとしています。
しかし、横風3ノットの風が吹いていたとしたらその力が相殺され、翼端渦流は滑走路の上に止まってしまうことになります。
これは横風約1〜5ノットの時に起こりやすいと言われております。
しかし、6ノット以上の場合は風の力の方がうわまってしまうので、両渦流とも風下に流されていくことが図からもわかります。
次に、背風の時は先行機の翼端渦流が前方に押されていき、後続機の接地点より奥に行く力が働くので問題ないでしょう。
一番怖いのは、左右斜め後ろからの風の時です。この方向から風が吹くと、最悪アプローチ中からタッチダウンまで、ずっと翼端渦流の影響を受け続けることになります。
こうならないためには、飛行ルートを風上側を通ってあげることです。
先行機と同じルートでは翼端渦流の影響により、タッチダウンポイントまでずっと飛行機が揺れ続けるので、先行機よりも少し風上側に飛行ルートをずらしてあげると、影響が弱くなることでしょう。
これは、テイクオフの時にも使える技術です。
まとめ
いかがだったでしょうか。翼端渦流は見えなくとも、とても怖い存在なのです。
後方乱気流の影響は、小型機だけではありません。
旅客機でも後方乱気流の影響で事故を引き起こしているのです。
【2001年:アメリカン航空587便】
少しでもおかしいと思った際には、ゴーアラウンドしたり飛行ルートを変更しましょう。