もし、あなたが単発エンジンの飛行機を操縦していて、唯一のエンジンが故障してしまったら、安全に着陸させる自信はありますか?
近くに空港があるとは限りません。
住宅密集地では、十分な空き地がない可能性もあります。
通常の着陸では、低くなればパワーを足してコントロールすることができますが、エンジンが故障してしまっている状態では、高度を距離に変更するしか方法がありません。
グライダーのように滑空して、アプローチのチャンスは1度きりです。
また、飛行速度はパワーではなくピッチでコントロールする点が通常の着陸と違う点です。
アプローチ速度が遅くなればピッチを下げ速度を上げ、逆に速くなればピッチアップ操作を行い減速するようにコントロールします。
しかし、ピッチを上げすぎると失速速度を簡単に切ってしまい、高度を一気に失い地面に真っ逆さまです。
特に滑空距離がギリギリ足りないの状況のとき、何とか滑走路などに届かせようと速度を切ってでもピッチアップしてしまう傾向があるので注意が必要です。
訓練初期の頃は、通常の着陸操作でいっぱいいっぱいのことでしょう。
しかし、飛行経験を積んでいくと、緊急時の対応を適切に迅速に行うことが求められます。
また、プロのパイロットになるとそれらができて当たり前の状態まで仕上げる必要があります。
実際にエンジンが故障することは稀かもしれませんが、絶対にないとは言い切れません。
なので、パイロットは訓練でエンジン出力を失ってしまったときの対処方法を繰り返し練習をします。
練習ではエンジンを実際に止めることはせず、エンジン出力を絞りアイドル状態で滑空し、エンジン故障などの模擬を行います。
シミュレーター訓練ができるところでは、実際にエンジンから火災が発生するなど実機で行うには危険すぎる状況も模擬することができるでしょう。
エンジン故障発生から滑空し決められた地点にタッチダウンする一連の練習は、滑空飛行する角度により「90° Power-Off Approach」「180° Power-Off Approach」「360° Power-Off Approach」に分けられています。
今回は、90° Power-Off Approachについて見ていきましょう。
90° Power-Off Approachのセッティング

90° Power-Off Approachは、名前の通りエンジン出力がない状態で約90°旋回して着陸することを指します。
上図のように、ベースレグからファイナルアプローチへ旋回するイメージです。
エンジン出力を失っている分、トラフィックパターンは通常よりも小さくなります。
また、ファイナルの風が強いときはベースレグで滑走路に近づかないと、滑走路まで届かなくなってしまいます。
この訓練を行うときは、通常のトラフィックパターンに入り約1,000ft AGL (Above Ground Level)の高さで飛行をします。
ベースレグまでエンジンは使用できる状態を想定しているので、ダウンウィンドでは滑走路からの距離は通常のトラフィックパターンの距離で飛行をします。
「Before Landing Checklist」を行い、ギアが上げ下げできるタイプの機体では、ダウンウィンドでランディングギアを下ろします。
ベースレグに旋回を行い、いつも通りベースレグの速度になるようパワーをセットします。
90° Power-Off Approachの要領

上図のベースキーポジションに到達したら、スロットルをアイドルにセットし、可変ピッチプロペラならプロペラをRPMが最大になる方向にセットします。
これがエンジン故障の模擬となります。
なので、これ以降に出力操作は行わないことをが前提です。
パイロットは、機体の製造会社が設定する「Best Glide Speed」になるように飛行速度を調整します。
「Best Glide Speed」 が設定されていない機体では、1.4Vsoを目安に合わせると良いでしょう。
アプローチ速度をBest Glide Speedか1.4Vsoにあわせたら、ピッチをその速度が維持できるように調整し、トリムをあわせます。
ベースからファイナルターンを行い、滑走路延長線上に合うように機体をコントロールします。
ファイナルコースに乗ったら、フラップを下ろし速度を1.3Vso程度に合わせ、トリムを取り直します。
ここで必ずしもフラップを下ろす必要はありません。
もし、向かい風が強い中滑走路までの距離が遠いと感じたときは、フルフラップに下ろさない方が風の抵抗が少なくて済むので、より遠くまでグライドすることができます。
逆に高くなりすぎたら、フルフラップにしてスリップをするなどして抵抗を増やして高度処理を行います。
高度と速度処理が終わったら、着陸する地点へ目掛けて安全にタッチダウンできるように集中します。
タッチダウンポイントが目標地点より200ftずれてしまってもより安全に着陸できるのならば、目標地点に無理やり接地させるよりずっといいでしょう。
まとめ
エンジン故障はいつ起こるかわかりません。
ベースレグでエンジンが故障することもあるでしょう。
次回以降「180° Power-Off Approach」「360° Power-Off Approach」も見ていきましょう。
この3つがカバーできれば、いつエンジン故障が起きてしまっても対処することができるでしょう。
【参考文献】