パイロットが抑えておくべき対気速度4種と誤差【IAS, CAS, EAS, TAS】

突然ですが、「アイスティー」はお好きですか?夏の昼下がりに氷でキンキンに冷えたアイスティーは最高ですよね。

実は、「航空機の速度」と「アイスティー」は、切っても切れない関係なのです。

航空機の速度は以下の4つがあります。

① IAS(Indicated Airspeed):指示対気速度
② CAS(Calibrated Airspeed):較正(こうせい)対気速度
③ EAS(Equivalent Airspeed):等価対気速度
④ TAS(True Airspeed):真対気速度
これらの頭文字をとると「ICE-T:アイスティー」と読めます。

そこで、この記事ではそれぞれの速度の種類の意味や変換方法をご紹介します。

【この記事を読むとわかる事】
▶航空機が使用する速度の種類とその意味
▶速度の変換方法
この記事を最後まで読めば「アイスティーの違い」や「それぞれへの変換方法」が分かると思います。

飛行機の速度の単位は?

日本人にとって、距離を表す単位として、キロメートル(km)が一般的ですよね。しかし、飛行機の世界では英語で「ノーティカルマイル(NM|Nautical Mile)」、日本語で「海里(かいり)」を使用しています。

1海里は、「1,852メートル」です。覚えにくい数字ですが、これは地球を1度単位で輪切りにした時、「緯度1分」に相当する長さです。

出典:Lidingo

この単位は、船舶業界から航空業界へとやってきました。航空業界の言葉や単位は、船由来がとても多いです。例えば、飛行機のことを「シップ」と読んだり、機長のことを「キャプテン」と呼ぶことが同じです。

なので、英語では「NM」を「Sea Mile」とも呼びます。

移動速度の考え方も同じで、飛行機の世界ではたとえ国内線でも「時速〇〇km」は使用せず、「時速〇〇NM|時速〇〇ノット」を使用します。航空機は無風時でも強風時でも空気をかき分け続け空を飛びます。航空機と空気は切っても切れない関係なので「航空機の移動速度」は「大気」と比較して知る必要があります。

この航空機と大気の相対速度のことを「対気速度」と言います。対気速度は、誤差を加味して全部で4通りあるので、それぞれの違いについてみていきましょう。

①IAS (Indicated Airspeed|指示対気速度)

対気速度計(ASI:Airspeed Indicator)が表示する速度で「取り付け誤差」「計器誤差」「圧力誤差」「密度誤差」の補正は一切行われていません。航空機製造メーカーはこの指示対気速度(IAS)を航空機の性能を評価するための基準として使用します。

図1. 対気速度計

また、「AFM/POH(飛行機の取扱説明書)」に記載されている「離陸速度」「着陸速度」「失速速度」なども指示対気速度で記載されています。

指示対気速度(IAS)は、「ピトー管(Pitot Tube)」と「静圧口(Static Port)」から得た情報をコックピットにある「対気速度計」に表示しています。

対気速度計は、標準大気を想定して目盛りが付けられています。

≫関連:【ISA】パイロットにとっての標準大気

②CAS (Calibrated Airspeed|較正対気速度)

「②較正対気速度(CAS)」は、「①指示対気速度(IAS)」に「取り付け誤差(位置誤差)」と「計器器差」を補正したものです。

較正対気速度は、機体の速度規定(リミテーション)に用いられております。

IASとCASの誤差はそれほど大きくないので、許容範囲内のことが多いでしょう。

写真1. ピトー管

これらの誤差は、低速飛行時に顕著に表れ、フラップ使用時などには最大数ノット程度変わります。逆に、高速飛行時(巡航時)には誤差はほぼ発生せず、「IAS値 CAS値」となります。

「較正表」なども用意されているため、必要に応じて対気速度の補正に役立てるとよいでしょう。

③EAS (Equivalent Airspeed|等価対気速度)

「②較正対気速度(CAS)」に「圧力誤差(断熱圧縮流)」を加味したのが「③等価対気速度(EAS)」です。飛行中の高度での速度を標準大気(海面上)での速度に換算し導き出されます。

断熱圧縮:周囲から熱の供給がない状態での気体圧縮のこと。

低高度を低速で飛行する場合、圧力誤差は小さくなります。

また、標準大気の状態では以下のような関係が成り立ちます。

CAS = EAS = TAS


この速度は「機体の操作性」や「機体強度」などを予測するために役立てられています。

④TAS (True Airspeed|真対気速度)

「④真対気速度(TAS)」は、「③等価対気速度(EAS)」に「密度誤差」を加味したものです。

高度が上がると空気密度が減少するため、ピトー管へ同じ圧力を加えるためには、飛行速度を上げる必要があります。ピトー管へ同じ圧力を加える理由は、同じ対気速度を維持するためです。

逆に、低空飛行時の真対気速度(TAS)を上空でも維持していると、指示対気速度(IAS)は低下してしまいます。

真対気速度(TAS)は、飛行計画に使用され、フライトプランを提出する際に使用される速度です。

「較正対気速度(CAS)」から「真対気速度(TAS)」へ変換する方法

CASからTASへの変換は、以下の法則を使用することで簡単に行うことが出来ます。

高度1,000ft上昇するごとに「較正対気速度(CAS)」に2%ずつ加算する

更に正確に変換したい場合は、フライトコンピューターを使用するとよいでしょう。

フライトコンピューターで「真対気速度(TAS)」を求める方法

フライトコンピューターを使用すれば「気圧高度」「気温」「指示対気速度」を利用して、「真対気速度」を簡単に導き出すことが出来ます。下記リンク先で、手順をご紹介しております。

≫【フライトコンピューターの使い方】真対気速度(TAS)の求め方

対気速度と対応する誤差の覚え方

ここまで対気速度とそれぞれの誤差についてみてきました。どの誤差かどれ対気速度に対応しているのか覚えておくいい方法をご紹介します。

図2. 対気速度の種類

それは、「アイスティー」と「投網(とあみ)」です。

【対気速度の覚え方(アイスティー)】
 ▶I:IAS
 ▶C:CAS
 ▶E:EAS
 ▶T:TAS

【誤差の覚え方(投網|とあみ)】
 ▶と:取り付け誤差
 ▶あ:圧力誤差
 ▶み:密度誤差

上記図2. のように「アイスティー」と「とあみ」は連携しています。

航空従事者学科試験で問われた「対気速度に関する」問題

【過去問】令和5年3月期/事業用操縦士/学科試験問題2

「TAS」は、「EAS」に「密度誤差」を加味したものなので、(2)の記載が誤りと言えるでしょう。

【一覧】過去に出題された「速度」に関する問題の出題状況

参考文献