【マイクロバースト】低層ウィンドシアーの概要、影響、観測方法について

低層ウィンドシアーとは?

低層ウィンドシアーとは、「低高度(通常2,000フィート/600メートル以下)において対流現象により局地的な上昇・下降の鉛直気流により発生するタービュランス」を指し、主に航空機の離着陸時に問題となる現象です。

ウィンドシアーとは、非常に狭い領域で風向風速の急激な変化をもたらし、突然激しい「上昇気流」「下降気流」「水平方向の気流」の変化をさらすことがあります。

ウィンドシアーはどの高度でも発生する可能性がありますが、低高度で発生するウィンドシアーは、低高度を飛行する航空機にとっては、回避操作に猶予がないので特に危険です。

マイクロバースト(microburst)

マイクロバーストは低層ウィンドシアーに分類され、とても危険なものです。積乱雲などからの降水が、その雲の底面に位置する乾燥した空気に降り注ぐ際に発生します。

地表面に強い降雨帯があるものの、降水が地面に届く前に蒸発・昇華してしまうため水滴などは目視できず、地表面に吹き付けられる下降気流によって巻き上げられた、塵やホコリの様子で気が付くことが出来るでしょう。

雲から雨などが落下している途中で蒸発・昇華し、地面に水分が到達しない現象を「Virga」「尾流雲」といいます。降水が大気の乾燥した層を通過することで発生します。空には雲や霧がかかっているように見える場合があります。

典型的なマイクロバーストは、水平直径が1〜2マイル(1.6~3.2キロメートル)、高さが1,000フィート(300メートル)程度です。マイクロバーストは約5〜15分間存在し、最大6,000ft/mの下降気流や30〜90ノットの正対風(Head Wind)の減少を引き起こし、航空機の性能を大きく低下させます。

低層ウィンドシアーの発生原因は?

低層ウィンドシアーの発生原因はいくつかありますが、主な原因はを見ていきましょう。

  1. 逆転層(気温の逆転):暖かい空気が上に、冷たい空気が下にある場合に生じる。
  2. 前線の通過:対流性雲の前縁に沿って発生する対流性低気圧が、地表面に近い風向風速の変化を引き起こす。
  3. 地形効果(山脈、丘陵、建物、水面など):山地の風は、斜面を上下に流れる風と垂直方向の風との間で急激な風向風速の変化を引き起こすことがある。また、耕作地や水面など地表面が異なると熱の放射量が異なるため、不均一に加熱された空気が局所的な循環を形成する。上昇気流があるとそれを補償する下降気流がある。
  4. シースノーライン(雪線高度)※1:海や湖の近くの低高度の場所では、水面近くの暖かい空気が、寒い高度の空気に接することがあり、この境界で風向風速が急激に変化することがある。
  5. 湿度変化:大気中の水蒸気の量の変化によって、風向風速が急激に変化することがある。
  6. 強い上層風(25ノット以上):大気の水平風速の急激な変化
  7. 気圧や温度の上昇や下降による風の境界面の形成
  8. 雷雨:雲の発生や降雨による乱流が発生

※1. シースノーラインは、海抜0メートルの高度で気温が0℃以下となる高度のことを指します。低層ウィンドシアーは、通常、地上から2,000フィート(600メートル)以下の高度で発生する風の急激な変化です。これらの現象には密接な関係があります。

海面付近では、シースノーラインの下にある暖かい空気が冷たい空気の上に流れ、上昇気流を形成します。この上昇気流は、強い対流と雷雨の形成を引き起こすことがあります。この対流によって、低層ウィンドシアーが発生することがあります。また、シースノーラインの上では、上昇気流が下降気流に変化することがあり、これがウィンドシアーの発生原因となることもあります。

これらの要因により、風向風速が急に変化することで、非常に狭い範囲で風の勢いが急激に変化します。

低層ウィンドシアーが航空機に与える影響

【図1】離陸時のマイクロバーストの影響

マイクロバーストは強い乱気流や危険な風向きの変化をもたらすことがあります。上記【図1】を参考に離陸時におけるマイクロバーストの影響を見ていきましょう

  1. 離陸滑走後、飛行機はまず正対風の影響により性能を向上させる傾向にあります。この時、急激にピッチアップ操作をしてしまったり、対気速度を落とそうとスロットルを絞ってしまうことも考えられます。
  2. 性能を低下させるダウンドラフトの領域に差しかかり、上昇角度を維持するのが困難になります。
  3. 急激に背風(Tail Wind)要素が強まる領域に差しかかり、機首を下げるなどの行動をとらなければ、十分な対気速度を維持するのは困難になります。
  4. これらの影響・行動により、地面に衝突する危険性が高まります。

逆に、進入中に低層ウィンドシアー(マイクロバースト)に遭遇した際は、滑走路遥か手前で機体が地面にたたきつけられてしまう可能性があります。

低層ウィンドシアーの予測と観測

FAAは、マイクロバースト事故の予防に多大な投資を行っています。完全に再設計された「LLWAS-NE」「TDWR」「ASR-9 WSP」は、主要空港に設置されたマイクロバースト警報システムです。これらの3つのシステムは3年間にわたって試験運用され、それぞれがほぼ誤った警報を発せず、議会によって定められた90%以上の検出要件を満たすことが確認されました。

多くのフライトはマイクロバースト警報装置がない空港を含むため、FAAはウィンドシアーのトレーニング資料も準備しています。その中には、「マイクロバースト遭遇リスクを認識する方法」「遭遇回避方法」「遭遇時における最適脱出飛行戦略に関する情報」が含まれています。また、FAAパイロットウィンドシアーガイドとして知られるアドバイザリーサーキュラー「AC 00-54」も発行されています。

日本では、空港近くで発生する低層ウィンドシアーは、「空港気象ドップラーレーダー・ライダー」が観測しており、その情報から作成される「低層ウィンドシアー情報文」や「PIREP:パイロットレポート」などから知ることが出来ます。

ドップラーレーダーは、日本全国の主要9空港に配備されています。北から「新千歳空港」「成田国際空港」「東京国際空港」「中部国際空港」「関西国際空港」「大阪国際空港」「福岡空港」「鹿児島空港」「那覇空港」

低層ウィンドシアーの危険性に対する対策

低層ウィンドシアーに対する対策としては、以下のようなものがあります。

  1. パイロットの教育とトレーニング:パイロットには、ウィンドシアーに関する正確な知識とトレーニングが必要です。FAAなどの機関は、ウィンドシアーについての情報や訓練資料を提供していますので事前に知識習得に努めるとよいでしょう。
  2. ウィンドシアー警報システム:主要空港には、ウィンドシアーを検出するシステムが設置されています。(「LLWAS-NE」「TDWR」「ASR-9 WSP」「ドップラーレーダー・ライダー」)これらのシステムは、自動的にウィンドシアーを検出し、パイロットに警告を発することができます。
  3. 天気情報の確認:飛行前に天気情報を確認し、ウィンドシアーの可能性がある場合には、その情報を考慮して航行計画を立てることが重要です。また、最新の「PIREP」なども参考にするとよいでしょう。
  4. 飛行計画の選択:ウィンドシアー発生の可能性がある場合、迂回ルートを選択するか、飛行を延期することが適切な場合があります。
  5. 飛行中の警戒:ウィンドシアーには注意を払い、パイロットは常に機体・大気の状態を監視し、必要に応じて対策を取る必要があります。
  6. 機上ウィンドシアー警報システムの活用:旅客機にはウィンドシアーを検知するシステムが組み込まれているものがあります。システムが発動したら即座に回避操作を開始するなど、規定で定められているので、その規定に従うようにしましょう。管制官は、この回避操作中は管制指示を出してはならないこととなっています。

ウィンドシアーはどの高度の飛行においても発生する可能性があります。空気の対流現象により発生するウィンドシェアーですが、発生した上昇気流はやがて飽和に達し雲を形成することがあります。こうした雲の頂は対流性気流の上限と認識できますが、空気が乾燥していると雲はできないこともあります。

ウィンドシアーが事前に報告・検知されることもありますが、しばしば検出されず、突然発生・遭遇することも十分に考えられます。特に雷雨や前線周辺を飛行する場合には、常にウィンドシアーの可能性に注意を払い準備しておくことが重要です。

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参考文献