パイロットと飲酒問題とこれからの航空会社の対応策|【2019年版】

パイロットと飲酒問題

車の運転で、呼気1リットルあたり中0.15mg以上のアルコール量が検知されたら酒気帯び運転で違反になります。

どの程度のアルコールが検知されたかによって、罪の重さは変わってきます。

呼気1リットル中のアルコール量 違反点数
【酒気帯び運転】0.15mg以上0.25mg未満 13点(免許停止期間90日)
【酒気帯び運転】0.25mg以上 25点(免許取り消し欠格期間2年)
【酒酔い運転】正常な運転ができない状態 35点(免許取り消し欠格期間3年)

また、お酒を飲んだ人の車に同乗するだけでも罪になる時代になりました。最高3年以下の懲役、または50万円以下の罰金に問われます。

最近では飲酒運転撲滅キャンペーンの効果も出てきて、車の飲酒に関係する死亡事故は年々と減ってきています。

出典:警察庁
そもそも、なぜ飲酒運転をしてはいけないのでしょうか?
警察庁によると、”飲酒時には、安全運転に必要な情報処理能力注意力判断力などが低下している状態になります。具体的には、「気が大きくなり速度超過などの危険な運転をする」、 「車間距離の判断を誤る」、「危険の察知が遅れたり、危険を察知してからブレーキペダルを踏むまでの時間が長くなる」など、飲酒運転は事故に結びつく危険性を高めます。”
 当たり前ですが、これは車だけではなく飛行機でも同じことが言えるでしょう。飛行機の場合だと、車に比べてより高速で移動していますし、車と違って3次元で移動しています。より複雑な動きをしていると言えるでしょう。
なので、一瞬の判断の遅れが命取りになってしまいます。残念ながら、2018年の年末から航空業界の飲酒問題が相次いで取り上げられました。
今回は、過去の航空業界の飲酒問題について見ていきましょう。

過去の事例

JAL:ロンドン発羽田行き

2018年10月28日の現地時刻19:00ロンドン発東京行きだったJALの副操縦士の血中アルコール濃度が既定の9倍以上もありました。

JALではアルコール量を検知するため、運航乗務員の呼気検査を行っておりました。

しかし、検査の際この操縦士は検査機に息を吹きかけておらず、呼気検査が正しく行われておりませんでした。

また、他の乗務員は誰もこの操縦士の酒臭さに気が付かなかったそうです。

しかし、飛行機に向かうためのバスの運転手が副操縦士のアルコール臭に気がつき、セキュリティーに通報したことで明らかになりました。

副操縦士はコックピットに入り出発の準備をしておりましたので、もし運転手が通報していなければこの機体はロンドンを出発していたことでしょう。

また、大惨事を招いていた可能性も高いです。

JALは2017年8月からの統計で、アルコール濃度が基準値オーバーが19件発生しており、そのうち12便が遅延しておりました。

さらに、別件で同年12月に客室乗務員の女性が機内で飲酒していたことを発見し、航空局から業務改善勧告を受けております。

ANA 神戸発羽田行き

By lasta29 – CC by 2.0

2019年2月19日午前6:10分頃に、ANAの30代副操縦士が神戸空港の事務所に出勤しました。

呼気検査を行うものの基準値オーバーで、出発前に検査しても社内既定を上回る呼気1リットルあたり0.05mgのアルコールが検知されたため、乗務を交代しました。

これにより、出発が1:30分以上遅れてしまいました。

ANAウィングス (ANAからの出向機長)

By lasta29 – CC by 2.0

2019年1月3日にANAから出向していたANAウィングスの機長から、既定の2倍ものアルコール量が検出されました。

さらに、副操縦士と裏口合わせをしておりお酒の影響がまだ残っていると、自覚していたものと考えられます。

2019年1月16日付けで、出向元のANAから懲戒解雇処分を受けております。さらに、国土交通省から航空業務停止の処分が下されました。

  • 機長:1年間
  • 副操縦士:10日間

法律と航空局の流れ

運航乗務員の飲酒に関する法律は、航空法第70条に記載があります。

第七十条 航空機乗組員は、酒精飲料又は麻酔剤その他の薬品の影響により航空機の正常な運航ができないおそれがある間は、その航空業務を行つてはならない。

航空法(酒精飲料等)

法律では、何時間前までに飲酒を控えるような文言は書かれておりません。アルコールの分解速度は人によって違います。

よくテレビなどで聞く、乗務の何時間前まで飲酒が可能か決めているのは、各会社の決まり事です。

航空会社によって、8時間前、12時間前、24時間前など決まっているのです。

乗務前の飲酒を控える時間をもっと長くすれば問題がないと思われるかもしれません。

しかし、国内線で毎日のように飛ぶパイロットにとって、飲酒してはならない時間を長くすると、毎日飲酒できなくなってしまいます。

例えば、朝方の便を担当することが多い操縦士の場合、出発前の24時間前に飲酒してはいけないとなると、仕事が昼頃に終わったとしても、仕事後の一杯も飲めなくなってしまいます。

国際線のように、一度飛ぶと数日休みがあるわけではないので、アルコールをたしなむ人にとっては生きがいがなくなってしまう問題も抱えているのです。

最近立て続けに航空業界の飲酒問題が連続的に取り上げられていることもあり、国土交通省は2018年11月に「航空従事者の飲酒基準に関する検討会」を設置しました。

2018年11月1日に「飲酒に関する航空法等の遵守の徹底について」を発行し、全航空会社に徹底させるように試みました。

さらに、2018年11月29日には「運航乗務員に対する乗務前の飲酒に関する管理の強化等の指示について」を発行し、さらなる徹底を測ろうとしている最中に、ANAウィングスの飲酒問題が発生してしまいました。

翌月の12月25日にパイロットの飲酒基準ついて「中間とりまとめ」を行い、2019年1月31日に操縦士の飲酒基準を改定しました。

これにより、全運航乗務員の体内アルコール濃度の数値基準を設定し、航空運送事業者に対するアルコール検知器を使用した乗務前後の検査の義務付けがされました。

航空局はこれに加え、今後も安全監査等を通じて厳格に指導監督を行っていく意向を示しております。

現在も、各航空会社に出向き操縦士の呼気検査を抜き打ちで行っております。

航空局

各会社の飲酒対策

日本の運送事業を行なっている、12社が飲酒に関する再発防止策を航空局に提出しました。そのうちの、ANAグループとJALグループを見て行きましょう。

ANAグループ

国土交通省:航空運送事業者における飲酒対策より
国土交通省:航空運送事業者における飲酒対策より
国土交通省:航空運送事業者における飲酒対策より

JALグループ

国土交通省:航空運送事業者における飲酒対策より
国土交通省:航空運送事業者における飲酒対策より
国土交通省:航空運送事業者における飲酒対策より

この他にも、「航空運送事業者における飲酒対策」にはスカイマーク、ピーチアビエーション、NCA、エアードゥ、ソラシドエアー、スターフライヤー、バニラエアー、ジェットスタージャパン 、春秋航空、エアーアジア、FDA、新中央航空、東邦航空、オリエンタルエアブリッジ、天草エアラインが対策を発表しております。

気が向いた方はリンクを貼っておきますのでご覧ください。

「航空運送事業者における飲酒対策」はこちら

まとめ:

地上を走る車ですら飲酒運転で数多くの命が毎年奪われております。空を飛ぶ飛行機のパイロットが飲酒運転していては、誰もが命を預けたくないと思います。

これから、東京オリンピックや大阪万博などでインバウンド需要が増えてきます。今よりも、パイロットのストレスレベルは高くなることでしょう。

事故が起こってしまっては遅いです。ただ禁止事項を増やしたり、罰を重たくしていくだけではなく、今抱えているストレスの逃げ道を何か別のいい方向に向けられるよう、みんなで考えていかないといけないのかもしれませんね。