あなたが操縦する単発ピストン機のエンジンが急に「ガタガタ」振動と轟音を発し、急に停止してしまいました。
トラブルに対処しつつ、正確に飛行機をコントロールして、緊急着陸のプランニングを立て、安全に着陸させる自信はありますか?
操縦に慣れていない人だと、とても不安になることでしょう。
特にエンジンが1つしかついていない場合だと、唯一のエンジンが故障してしまうと滑空するしか方法がありません。
限られた時間の中で緊急着陸の手順をこなしつつ、安全に着陸できる場所の選定、必要ならばATCに連絡などを行わなければなりません。
また、着陸するところの路面状況や風向風速、着陸距離の判断も行い、乗客がいる場合は接地後の脱出の打ち合わせも行うなど、短時間でワークロード が一気に増えてしまいます。
あらかじめ準備しておかないと、オーバーロードで頭の中がパンクしてしまうかもしれません。
今回は、緊急着陸について確認しておきましょう。
緊急着陸(Simulated Emergency Approaches and Landings)
フライトトレーニングを行う際、インストラクターは緊急着陸の訓練を生徒に行うべきです。
下方の安全を確認して、スロットルをアイドルにし「Simulated Emergency Landing」とコールして、生徒が安全に緊急着陸の手順をこなすことができるのか確認しましょう。
この訓練を行うことにより、パイロットとしての判断能力、操縦の正確さ、プランニング、緊急事態の手順、エンジン故障に対しての自信をつけることができます。
インストラクターが「Simulated Emegency Landing」とコールしてスロットルをアイドルにしたら、生徒はフラップとランディングギアのポジションを整え、滑空の姿勢を作ります。
滑空の姿勢ができたら、ピッチを安定させるためにトリムをとると良いでしょう。
最寄り空港を探したり安全に場外着陸できる場所を探して、そこに目掛けて高度処理などプランニングします。
このときに、速度を一定にするとどのぐらい滑空できるのか見通しがつきやすくなります。
滑空する際には、「高度」「障害物」「風向風速」「着陸方向」「接地地点のコンディションや勾配」「着陸距離」などの懸念点を1つずつ解決していきます。
安全に着陸できる場所が見つかったら、その場所からあまり離れないようにすることがポイントです。
高度処理が必要なら、上図のように着陸地点の上空付近で360°旋回を何周か行い、ある一定の高度に達するまで高度処理を行います。
エンジン故障をした際の高度が高ければ高いほど、より遠くまで滑空することができます。
よって、より着陸する場所の選択肢が増えます。
訓練初期では着陸場所の選択肢が多くなると、どこに着陸したらいいのか迷ってしまい、結局一番いい選択肢が取れなくなることがあります。
安全に着陸できる場所が見つかったら、すぐに決断を下しそこに安全に下ろすため集中しましょう。
対地速度(GS : Ground Speed)をなるべく遅くするために、向かい風方向に着陸させることを考えます
G1000などの最新の装備では、上空の風をコックピットのディスプレイに表示させることができます。
しかし、上空と地上の風向は真逆の事もあります。
なので、場外着陸する場合はATISなどの設備はないので、着陸する地上付近の風向風速は目視により確認しなければなりません。
地上にあるもので風向風速を確認するには、「ウィンドソック(空港の場合)」「煙」「ホコリ」「山火事」「風車」「水面」などが使えるでしょう。
事前に生徒に着陸する場所や方向が決まると、インストラクターに知らせるように指示をしておきます。
インストラクターが生徒が選んだ着陸場所の判断を行い、アドバイスを与えます。
着陸地の選定だけでなく、実際にどのような高さでとラフィックパターンを作り、安全高度を切る前までシミュレーションを続け、フラップやランデングギアを実際に出させるところまでおこなうとより良いでしょう。
このまま継続すれば安全に着陸できるとインストラクターが判断したら、安全高度を切る前にエンジン出力を高め、緊急着陸のアプローチを中断します。
地上の人や物に危険が及ばないように配慮する必要があります。
安全が確保されたらすぐにインストラクターは、フィードバックを生徒に与えます。
もし生徒が選んだ着陸地点が不適切な場合、そのまま着陸していたらどのような悲惨な状況に陥るのかを説明したり、もっと広く周りを見させどのような場所が安全に着陸するには向いているか教えるといいでしょう。
操縦に慣れていない生徒は、アプローチ速度の維持を忘れる傾向にあります。
速すぎても衝突の衝撃が大きくなりすぎますし、遅すぎても失速の可能性が高まります。
また、アイドルで長時間飛行しているとエンジンが冷えてしまうので、時々エンジンRPMを高くして暖機運転をしてあげる必要があります。
暖機運転は誰が行うのかはっきり決めておかないと、混乱が生じて多くの事故が発生してしまっています。
エンジン故障が実際に起こったときに行うチェックリストや手順も確認すると、より実践に近い模擬飛行ができるでしょう。
チェックリストの活用
「緊急操作」「プランニング」「操縦」を同時にこなすのは、初期の訓練生にとってとても難易度が高くなります。
多くのことに意識を向けないといけないので、何かをやり忘れてしまう事もあります。
時間的に余裕があれば、チェックリストを行うことを強くお勧めします。
上図のように緊急着陸の際に使うチェックリストがそれぞれの機体に合わせて作られています。
それをこなす事で、やり忘れを防止することができるでしょう。
「燃料タンクのセレクター」「燃料ポンプの動作確認」「ミクスチャーのセッティング」「マグニートのポジション」「キャブレターヒート 」など、最低限確認するべき項目は見逃さないようにしましょう。
単発ピストン機が上空でエンジン停止する理由の多くは、燃料が空のタンクにセレクターが位置していたことが原因であると、多くの緊急着陸の事故分析でわかってきました。
もし、両方のタンクのゲージが空になっていてもゲージの故障もあるので、セレクターの位置をもう一方に合わせてみるといいでしょう。
計器の故障で燃料がタンクに残っており、エンジンに燃料が供給できたら最寄り空港まで飛行することが可能になるかもしれません。
訓練中から、エンジンが停止してしまう原因を確認・分析することを行っていれば、実際にエンジンが停止した場面でも、訓練のように落ち着いて確認作業を行うことができるでしょう。
まとめ
緊急着陸は、エンジン故障だけが原因ではありません。
「燃料の欠乏」「火災」「電気系統の故障」「油圧システムの故障」「厳しい天候状況」「エンジンのオーバーヒート」などいくつも原因が考えられます。
緊急着陸をしなければいけない原因と手順をインストラクターと訓練生とで話し合い、必要ならば実際に模擬すると印象に残りやすく、そのような状況に陥ったときでも実際に行動に移しやすくなるでしょう。
【参考文献】