離陸ってどこまでのことなの?エンジンのリミテーションとの関係性

離陸ってどこまでのことなの?エンジンのリミテーションとの関係性

突然ですが質問です。

旅客機にとって、どこまでが離陸なのでしょうか?

水平飛行に移るところまででしょうか?

もしそうだとしたら、FL390でクルーズ予定の機体が、ATCなどでで10,000ftで一度止められたら、離陸を中断したことになるのでしょうか?

また、旅客機のエンジンは、どんどん進化をし、燃費性能が向上した上で、より高推力を発揮する事ができるようになりました。

離陸時が一番パワーを必要とし、エンジンに負担をかけます。

離陸推力の時は、エンジン内の圧力が高まり、より高温になります。

これらが、エンジンを痛めつけ寿命が縮まってしまいます。

これらを軽減するために、「Flex Temp」という仮想の温度を使用して、エンジンが必要以上のパワーを発揮しないように抑え、エンジン寿命を長くするオペレーション方法もあります。

そんなエンジンに負担がかかる離陸推力は、使用制限があるのをご存知ですか?

今回は、離陸推力のリミテーションと離陸の定義についてご紹介します。

エアバスA320のエンジンリミテーション

出典:FCOM TOME 5 THRUST SETTING/EGT LIMITS LIM-ENG P 1/4

こちらは、エアバスA320のエンジンのリミテーションの一部です。

離陸時やGo Around時に、推力を一番必要とします。

A320は双発機なので、片方のエンジンが壊れたことも想定されています。(両方のエンジンが同時に壊れることは滅多にありませんし、滑空して降りるだけなのでエンジンリミテーションを気にする必要がないので記載されていません)

通常、左右両方のエンジンが作動している時に使える離陸推力の時間制限は、「5分」で、万が一片方だけになってしまった時は、「10分」までと決まっているのです。

MCTの場合には時間制限はありません。

エアバスA320の離陸に使うスラスト3種類

A320が離陸上昇するために使うスラストポジションは3つあります。

それぞれ、「TOGA」「FLX/MCT」「CL」です。

TOGAは、「TakeOff and Go Around」から来ています。

FLXは「Flexible Temperature」で、MCTは「Maximum Continuous Thrust」から来ています。

通常、TOGAかFLX/MCTで離陸を行います。

そして、ある一定高度以上になると飛行機が「THR Climb」にしなさいと、PFDで教えてくれます。

パイロットは、ThrustをTOGAもしくはFLX/MCTから、CLへ変更します。

CLは「Climb」から来ており、ある高度以上から上昇するのに使われます。

初めからCLを使わず、TOGAやMCTを使う理由は、この2つはオートスラストがディアクティブモードだからです。(片発の時はMCTでもAuto Thrustがアクティブモードになる)

なので、離陸時などオートスラストに一瞬でも、勝手にパワーを絞って欲しくない状況で使用します。

ある一定高度以上確保できたら、オートスラストをエンゲージする意味で、CLにします。

TOGAの時にだけ「5分」と「10分」の最大使用時間が決まっており、「FLX/MCT」と「CL」には制限はないので注意しましょう。

どこまでが離陸?

冒頭の質問の答えは、離陸滑走開始から1,500ft(450m)に到達するまでが離陸になります。

リフトオフ後、35ftから1,500ftまでは、4つのセグメントに分けられています。

  • 第1セグメント:35ft(10.7m)からGear Upまで。
  • 第2セグメント:Gear Upから400ft(120m|加速高度)まで。
  • 第3セグメント:フラップを離陸ポジションからUpにして、加速します
  • 最終セグメント:400ft(120m)から1,500ft(450m)までとなっております。

まとめ

離陸時に推力を得る事ができる唯一のエンジン等は、いたわってあげないといけません。

ウルトラマンのように、エンジンが最大の力を発揮できる時間は、「5分」「10分」と限られています。

エンジン製造会社がエンジンのリミテーションを提示しているので、それは守らなければ安全は保証されないでしょう。

また、小型単発機の訓練では、離陸滑走距離は離陸滑走開始から35ftまでと習うだけで、その先のセグメントの分類は、旅客機の訓練で初めて習う人が多いのではないでしょうか。

ちなみに、このセグメントをエアバスA320に合わせると:

となります。

耐空性審査要領で、上昇勾配(Climb Gradient)が設定されています。

上昇勾配は、エンジンの数が2発(1.2%)、3発(1.5%)、4発(1.7%)で求められる勾配が違うので、これも注意が必要ですね。

 

【参考文献】

  • A320 FCOM TOME 5 THRUST SETTING/EGT LIMITS LIM-ENG P 1/4
  • 耐空性審査要領 2-3-8 離陸飛行経路
  • A320 Performance Manual
  • 14 CFR 25.111