【生理学】パイロットの疲労とパフォーマンスの関係について②

【生理学】パイロットの疲労とパフォーマンスの関係について②

人は目覚めてから16時間経つと自分の活力とパフォーマンスの低下を認識しはじめます。

安全運航や重要な意思決定には認知能力が必要不可欠です。

人の生活は必ずしも、その人のパフォーマンスが高い時に、仕事がアサインされているわけではありません。

規則正しい生活をしていれば、毎朝体内時計はリセットすることができ、一日のピークパフォーマンス時を比較的同じ時間帯に持ってきやすいです。

しかし、どうしても人は「テレビ」や「YouTube」などの誘惑に負けてしまい、睡眠時間が犠牲になりがちです。

また、誘惑に負けなくても、「残業」や「夜勤」など仕事上、短い仮眠だけで徹夜しなければいけないこともあります。

こうして、「睡眠の習慣」と「体内時計」がずれてきてしまうのです。

睡眠の習慣と体内時計があっていない兆候は、「パフォーマンスの低下」「眠気」「気分の変化」などとして体に現れます。

寝不足の次の日は、頭がぼーっとした経験はありませんか?

また、1日中眠くてしょうがない経験はありませんか?

睡眠時間とパフォーマンスの関係性

睡眠時間とパフォーマンスの関係性

この図の横軸は時間を表し、ある人の5日間のパフォーマンスを表した図です。

縦軸はパフォーマンスの高さを表し、上に行けば行くほどパフォーマンスが高い状態であることを表しています。

人は、どのぐらいのパフォーマンスを1日で出しているのか、黒い線で表現しています。

縦に長いグレーの枠は、睡眠(Sleep)を表しています。

【1日目】

1日の中でピークのパフォーマンスが発揮できるのは、それぞれ2回ずつであることがわかります。(9:00頃と午18:00過ぎ頃)

何時にピークが来るかは個人差があります。

【2日目】

1日目の夜に8時間睡眠を取れたので、2日目のパフォーマンスは1日目と変わらずほぼ最高のパフォーマンスを出すことができました。

【3日目】

2日目の夜は、8時間以上の睡眠がとれずに約3時間の仮眠をとっただけでした。

3日目の夜まで合わせて、3時間の仮眠を2回とっただけです。

2日目は、朝6:00に起床しているので、起床後約15〜16時間過ぎた頃から急激にパフォーマンスが下がっていることがわかります。

3日目の午前9:00〜12:00まで、もう一度仮眠をとって午後の作業に取り掛かりました。

この時の「午後のパフォーマンス」は、8時間以上睡眠が取れた日の午後のパフォーマンスと比べて、10%以上も低いことがわかります。

【4日目】

パフォーマンスがとても低い3日目も終わり、その日の夜にはいつもより1時間長い9時間睡眠をとりました。

長時間の睡眠時間を確保できたにも関わらず4日目は、1日を通して初日や2日目のピークのパフォーマンスまで、復活していないことがわかります。

【5日目】

4日目の夜も9時間の睡眠をとり、5日目を迎えました。

この日もパフォーマンスのピークは1日で2回やってくるのですが、初日や2日目のような最高のパフォーマンスは出せませんでした。

この実験でわかったことは、徹夜をしたらそのあと少し長く眠っただけでは、元のような高いパフォーマンスは出せず、徐々にパフォーマンスレベルが上がって行くことです。

そして、完全に回復するまでの期間は、最低2日かかるということでした。

ちなみに英語では、1日で来る2回のピークパフォーマンスのうち、午前中に調子がいいと感じる人を「Larks:ひばり」と呼び、午後に調子がいいと感じる人を「Owls:フクロウ」と呼び分けているそうです。

日本人の睡眠時間

そのほかにも、1日の睡眠時間を2時間削った(8時間-2時間=6時間睡眠)だけでも、人の活力とパフォーマンスに影響が出る実験結果が出ました。

特に影響を受ける時間帯は、早朝と夜の遅い時間帯のパフォーマンス低下が顕著に出ます。

あなたの1日の睡眠時間は、8時間取れていますか?

先進国の中でも睡眠時間が短いと言われている、日本人の平均睡眠時間は、平成29年度の厚生労働省の調査では、男女共40代から50代の方が一番睡眠を犠牲にしています。

【40代-50代で、8時間以上睡眠がとれいている人の割合は:】

8時間以上寝ている人の割合 男性 女性
40代 15.9% 14.7%
50代 14.9% 12.4%

程度しかいません。

約85%の方は、十分な睡眠がとれずに、その人の持っている最高のパフォーマンスが出せていないことになります。

平成29年度厚生労働省睡眠の状況

そのような睡眠不足で眠気を感じている人は、警戒心や注意力が低下します。

ある実験結果では、4日間8時間睡眠を5時間睡眠に削り過ごしたら、単純計算では「3時間x4日=12時間」睡眠が足りないだけと考えられるかもしれませんが、実際はその約3倍以上の40時間睡眠が削られた時と同じだけのパフォーマンスに下がってしまいました。

睡眠不足からくる眠気などの刺激に応えて、睡眠を改善したりせずにいると、日中の睡魔の回数と持続時間がどんどん頻繁に長くなっていきます。

そのほかにも:

  • 反応時間の低下
  • 認知遅滞
  • シチュエーショナルアウェアネス(Situational Awareness)の低下
  • 短期記憶力の低下

などが引き起こされます。

エラー率

先ほどの図からもわかるように、起床後1〜2時間と、就寝前1〜2時間は人のパフォーマンスは下がっています。

通常、起床後の身支度や通勤時間があるので問題がない方が多いでしょう。

注意すべき所は、午前中の1回目のピークパフォーマンスを終え、午後2:00から4:00頃のパフォーマンスが下がったところで、多くの人がミスを犯しやすくなっています。

これは、ちょうど体の芯の温度の変化のリズムと一致します。

厄介なことに、人は自分の疲労具合を見失いやすいです。

自分が感じている眠気よりも、必要としている睡眠の方が多いです。

睡眠不足が続くにつれて眠気も増してきますが、その感覚は曖昧で役に立たないそうです。

なので、あまり眠くないので今の自分のパフォーマンスは、すごく高いものが出せていると人は勘違いをしがちです。

実際に注意力が散漫になっていても、自分ではそんなこと全く感じていないのです。

多くの人は、この段階で自分自身で自分の注意力の低下に気がつくことができず、多くの場合手遅れのミスをして初めて気が付きます。

パイロットが、こんな状態では危なくてしょうがないでしょう。

何より、自覚症状がないのが怖いところです。

さらに、疲労が溜まってくると、その人の気分を変化させます。

 

眠い時に他の人に強く当たってしまった経験はありませんか?

 

眠気を感じている人の多くは、他の人とのコミュニケーション能力が低下してしまいます。

パイロットは、クルー間でのコミュニケーションや意思伝達がとても大事な仕事の一部です。

有効なコミュニケーションにより、ミスを防ぐことが多くあるからです。

多くの労働者は、ワークロードが疲れと密接な関係があると思っています。

例えば、国際線の1レグ8時間のフライトよりも、国内線で4レグを8時間飛行する方が離着陸回数が多いので、より疲れると考えるでしょう。

しかし、まだそのようなことは実験では実証されていません。

現実的には睡眠不足によるマイナスの影響を、ワークロードが多いというマイナスの気持ちが倍増させることがあるかもしれないです。

そのほかに、8時間以上途切れずに仕事をしていると、ミスをする可能性が高くなったそうです。

仕事から離れて、ちょっと一息つく事で、ミスと事故の可能性を下げてくれます。

【参考文献】

次回は、パイロットの疲労の元について見ていきたいと思います。

また、シフトワーカーの定義をご存知ですか?

シフトワーカーは年々増えているそうですが、睡眠負債がたまりやすく、気をつけないととても怖い働き方と言えるでしょう。

【次回の記事】

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