ハイドロプレーニング現象と起きる目安
1977年にポルトガル航空425便が、ポルトガルのフンシャル・マデイラ空港でオーバーラン事故を引き起こしてしまいました。
131名の犠牲者を出してしまう大惨事を招きました。
この事故の原因はハイドロプレーニング現象だと言われています。
この現象や発生しやすい状況を知らないと、いつ同じような事故を引き起こしてしまうかわからないでしょう。
今回は、飛行機の事故にも繋がるハイドロプレーニング現象について見ていきたいと思います。
ハイドロプレーニング現象とは?
ハイドロプレーニング現象は、別名アクアプレーニング現象や水膜現象とも呼ばれ、タイヤと路面の間に水の膜ができてしまい、まるでカーリングのように路面を滑ってしまう現象のことです。
タイヤは地面をグリップする力を失ってしまっているので、ブレーキ操作はもちろんのこと、ハンドル操作も全く効かなくなってしまう恐ろしい現象です。
毎回濡れた地面の上で発生するわけではなく、走行中に路面の水量がタイヤの溝がかき出す力を上回った時に発生します。
発生しやすい時
ハイドロプレーニング現象は、タイヤの溝が水をかき出す力を上回った時に発生するので、その原因を見ていくと:
【タイヤの溝が磨耗している時】
新品のタイヤでは、溝が深く掘られているのに対して、長いこと使用されるうちにタイヤの溝は浅くなっていきます。
溝が浅くなるということは、排水する能力が低下し、ハイドロプレーニング現象がより起きやすい状態であると言えるでしょう。
【空気圧不足】
タイヤの空気圧が不足すると、タイヤは凹み地面との接地面積が増えていいと思うかもしれませんが、それは間違いです。
接地面積が増えたことにより、地面とタイヤの接地圧力が下がってしまいます。
なので、地面を優しく撫ででしまっているようになるので、強くタイヤを地面に押し付けている時と比べて、タイヤの排水能力が低下している状態になります。
【路面の水量増加】
タイヤの溝がしっかり掘られていて、タイヤの空気圧が高くても、ゲリラ豪雨など降る雨の量がとても多く、タイヤの排水のキャパオーバーになってしまっては、ハイドロプレーニング現象が起きやすくなってしまいます。
【オーバースピード】
車を運転していて、水たまりに入ると車体が少し上に持ち上げられる感覚があると思います。
それは、タイヤと地面の間に水が入り込み、車体を上に持ち上げようとする力が加わっているからです。
また、水はシャバシャバですが、水にもある程度の粘度があるので、ある一定以上のスピードを出すと、その粘度の影響でタイヤの溝が水をかき出す力を上回ってしまいます。
この二つの力が働き、スピードを出しすぎた時にはハイドロプレーニング現象が起きやすい状況にあるのです。
起きる目安速度
速度を出しすぎると、ハイドロプレーニング現象が起きやすいとわかりました。
しかし、一体その速度はどのぐらいなのでしょうか?
ハイドロプレーニング現象が起こり始める速度を計算する公式があります。
それは、
「ハイドロプレーニング現象発生速度(kt) = 9√PSI」
です。タイヤの空気圧(PSI)をルートで囲い、9を掛けると答えはノット(海里)で出ます。
【旅客機|A320】
エアバスA320のタイヤの空気圧は209psiに保たれています。
これを公式に当てはめると、
9√209 = 130.11kt (=240km/h)となり、約130ktでハイドロプレーニング現象が起こり始めると大体の目安がわかります。
【自動車】
一般的な乗用車に使用されているタイヤの空気圧は「前輪:210kPa」「後輪:200kPa」が目安です。
「210kPa」は「30.45PSI」なので、これを踏まえ公式に当てはめると:
9√30.45 = 40.30kt (74.63km/h)となります。
約74km以上の速度を出す運転時には、より細心の注意が必要です。
対処方法
ハイドロプレーニング現象に対処する方法が3つあります
- タイヤの溝の形の研究
- 路面にグルービング
- あえて何もしない
【タイヤの溝の形の研究】
タイヤの溝の形を見ていると、色々な模様があると思います。
個人のレベルでは難しいかもしれませんが、タイヤメーカーは溝のパターンを研究する事で、より水はけの良いタイヤや走行燃費の向上を図ろうとしています。
自動車のタイヤは、縦溝や横溝に加え、斜めやジグザグに溝が切られているタイヤが多いですが、航空機用タイヤはタイヤの強度を上げるために、縦溝しか掘られていないものが多いです。
【路面にグルービング】
タイヤの溝同様、地面にも溝を掘れば水はけが良くなります。
この溝のことを、グルービングと呼びます。
溝を掘る方向は、縦と横の2パターンあります。
『縦溝』
進行方向と平行に溝を掘ると、タイヤが地面に食い込みやすくなります。
これにより、カーブ時などタイヤの横滑りを減らし、ドリフトなどしづらくする効果があります。
しかし、タイヤの細い自転車や自動二輪車では、タイヤが溝に取られ、タイヤの転がる向きが強制されてしまい、走行に恐怖感を与えるデメリットがあります。
『横溝』
多くの滑走路には、横溝が彫られています。
滑走路の中央が盛り上がっており、路肩に行くほど下がっています。
そこに、横溝を掘ることで水はけが良くなる仕組みです。
また、一般道路でも横溝の間隔を調整することで、走行時に運転手への注意喚起や、タイヤで音楽を奏でる「メロディーロード」も整備されています。
【あえて何もしない】
まずハイドロプレーニング現象が起こらないようにするのが一番ですが、もし引き起こされてしまった際には「何もしない」事が大切です。
地面とタイヤの摩擦がないので、急ブレーキや急ハンドルを切って、いくら対処しようとしても無駄です。
ブレーキペダルから足を離し、急ハンドルをしないようにし、徐々にタイヤが地面を捉え始めるのを見守るしかありません。
タイヤと地面の摩擦が復活したら、徐々にブレーキやハンドル操作ができるようになります。
急ハンドルを切った状態で、タイヤのグリップ力が戻ったらスピンに入りやすいので、進行方向にハンドルは向けておき、ブレーキは踏まないようにしたほうがいいです。
まとめ
ハイドロプレーニング現象の原因から対処方法まで見てきました。
ちなみに、ハイドロプレーニング現象が引き起こされ始める目安の速度の公式は、あくまでも目安です。
滑走路にグルービングが彫られていたり、タイヤのすり減り具合によっても変わってくるので、あくまでも目安として捉えてください。
さらに、滑走路が濡れている日には機体をあえて強めに地面に接地させることで、ハイドロプレーニング現象を抑える技術もあります。
多くの犠牲者を出したこともある、ハイドロプレーニング現象を知ることで、また一歩安全に運航や車の運転ができるようになるでしょう。
今回は、ハイドロプレーニング現象についてご紹介しました。
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