着陸をするにあたって、フラップを使用することは当然のように思われています。
これは、フラップを使用することにより何らかしらのメリットが与えられるからでしょう。
では、フラップを使用することによりどんなメリットがあるのか、いくつかあげられますか?
また、フラップを展開したら、高度がずれる経験はありませんか?
今回は、フラップがアプローチやランディングに与える影響について、見ていきたいと思います。
フラップ使う事のメリット
フラップを使用することにより、得られるメリットは次の3つがあげられるでしょう。
- フラップによりリフトが増すので、アプローチ速度を遅くできる。
- ドラッグが増えるので、アプローチ角度を急にするときでも増速せずに済む。
- ランディングロールを短くする
フラップを展開することにより引き起こる影響
フラップを出すことにより、翼のキャンバーが変わります。
翼の形が変わるということは、ピッチに変化を与えます。
多くの場合、フラップは翼の後方から飛び出してきます。
翼が後ろに伸びているので、リフトの中心(CL: Center of Lift)が後ろに移動することになります。
よって、CLとCGのバランスが崩れ、ピッチダウンする傾向が現れます。
また、フラップにより翼の後ろにできるダウンウォッシュの力の向きが変わります。
フラップの変化に、このダウンウォッシュの向きが変えられ、高翼機ではダウンウォッシュが水平尾翼にあたります。
これにより、尾翼がした向きの力を発揮するので、ピッチアップ傾向になります。
先ほどの、CLとCGのずれによるピッチダウンと、ダウンウォッシュによるピッチアップが相殺される関係にあります。
フラップとドラッグ
セスナ172モデルなど操縦していて、フラップ10を展開したとき、「フワッ」と浮かび上がる経験をした事がありませんか?
これは、フラップが約15°まではドラッグはあまり生み出さず、リフトを増加させる事が原因です。
フラップアップの状態からフラップ10にすることによりリフトが増加するので、リフトとウェイトのバランスが崩れ、リフトの力が上回った分だけ機体が浮かび上がろうとするのです。
また、ショートフィールドテイクオフ時などにもフラップ10を使用するのはこのためです。
離陸の時に着陸のようにフルフラップにしないのは、ドラッグを極力減らしたいからです。
テイクオフフラップは、ドラッグがミニマムでリフトの増加が見込められ浅い角度までの設定になっているのは、先ほどのフラップ角15度以上になるとドラッグが急激に増すためです。
フラップ角15度を超えると、ドラッグの力が大きくなるだけでなく、ピッチアップの傾向が大きくなります。
セスナ172モデルでフラップ20を展開した時、ピッチアップした経験はありませんか?
これはセスナ172モデルのような高翼機では、フラップ15度以上になるとダウンウォッシュの向きが変わり、ちょうど水平尾翼にあたるようになるからです。
水平尾翼により風が当たるようになり、下向きの力を生み出している水平尾翼がさらに仕事をするようになります。
こうなると、自然とピッチアップになるのはもうお分かりのことでしょう。
なんでフラップを徐々に出すのか?
トラフィックパターンを飛行していて、ダウンウィンドレグでフラップ10、ベースレグでフラップ20、ファイナルレグでフラップFullにするのが通常でしょう。
チマチマフラップを出すのは面倒だし、出し忘れるかもしれないから一気にフラップをフルにしたいと思う人がいるかもしれません。
しかし、なぜいきなり着陸形態であるFlap Fullにしてしまわないのでしょうか?
それは、フラップを出す角度とリフト変化の関係性によるからです。
フラップをUpから一気にフルにすると、翼の形が大きく変化しすぎてしまいます。
そうなると、リフトが急激に増加するに加え、ピッチが大きく変わり、ドラッグも増えます。また、速度も変化するでしょう。
こんなに色々な面が大きく変化する中で、降下パスを一定に維持するのはとても難しいです。
なので、フラップを徐々に出していくことで、飛行機の変化を少しずつに抑える事ができます。
- フラップ10にする時は、持ち上げられるので高度計に注意を向けよう。
- フラップ20にする時は、ピッチアップの傾向があるので姿勢指示器(AI:Attitude Indicator)に注目だ。
- フラップFullにする時は、今までで一番ドラッグが増えるので、速度計に目を向けておこう。
など、注意しながら飛ぶとより安定してアプローチする事ができるでしょう。
ファイナルアプローチ中の判断とフラップ
フラップを展開したらドラッグが増えるので、ピッチを下げるかパワーを足さないと速度が低下していきます。
ファイナルアプローチ中、どのような角度で接地点に向け降下していくか、パイロットは判断しなければなりません。
接地点をじっと見つめて、そこよりも奥に接地しそうになっている時は、さらにフラップを出してあげる必要があるでしょう。
もし既にフルフラップにしてしまっているなら、パワーを絞ってピッチダウンする事で、増速せずに降下角を急にする事ができ、接地点を手前に持ってくることもできます。
逆に、目標としている接地点より手前に接地してしまいそうな時は、ピッチを少しあげパワーを足して上げることで、降下角を浅くする事ができます。
ここで、フラップを1段戻す行為は絶対にしてはいけません。
フラップを上げることにより、リフトが減少し急激に機体が沈み込み、最悪地面に激突してしまう可能性があるからで。
ファイナルアプローチに入ると、パワーはより絞られ速度も遅くなります。
なので、トリムをもう一度取り直してあげることで、より操縦が楽になります。
フルフラップにすることにより、水平尾翼へのダウンウォッシュの影響も小さくなるので、ピッチアップさせる側にトリムを取る事が多いでしょう。
「フレアー」「タッチダウン」「ランディングロール」が成功するかどうかは、ファイナルアプローチのできにより左右されます。
いつも同じように、「対気速度」「機体の姿勢」「パワーセッティング」「フラップ角」をファイナルアプローチで再現できると、先ほどの3つも安定してきます。
まとめ
これらの理由により、着陸にはフラップが使用され、その展開は段階を踏んでゆっくりと着陸形態を整えられていきます。
今まで、ただ何となくFlap10の時は高度がずれると思っていた人でも、今回の知識があればどういうときにピッチ変化や操縦性が変わるのか理解できるようになり、より自分のアクションに対してのリアクションを想像する事が容易になる事でしょう。
今回のような知識や経験が積み重なることにより、フラップを展開しても高度や降下パスを一定にできるように、機体へのインプットを先回りで行え、結果アプローチが安定し、接地もうまくいく好循環を生み出していくことでしょう。
【参考文献】