【生理学】パイロットの疲労とパフォーマンスの関係について⑥
前回まで、疲労によりもたらされるリスクを話してきましたが、今回は、そのリスクの軽減する方法を見ていきたいと思います。
疲労が原因で起こる事故のリスクを下げる方法は、大きく分けて2つあります。
【疲労に関係してくるもの】
- 目覚めてからの時間
- 累積睡眠負債
- サーカディアン・リズムの注意
「睡眠の機会」「仕事のスケジューリング」「仕事関連の要因」などを一つずつあげていく事で、事故やエラーを引き起こしかねない、疲労が原因の注意力散漫な状態を少しでも排除することができます。
「疲れる仕事量を少なく」すれば問題解決できると考えられるかもしれませんが、それではまだ十分ではありません。
仕事前日に睡眠時間が短くなったり、浅くなったりしないようにするため、どのようにしたらより効果的な「睡眠」が取れるのかもセットで工夫していかなければならないです。
睡眠の質を高める仕事を任されたスタッフは、このシリーズで書いてきた疲労の基礎知識を他のスタッフやクルーにも伝えてあげましょう。
クルーは仕事前に完全休養を取らないと、仕事で隙のないパフォーマンスを発揮することは難しいでしょう。
経営陣は、労働環境で疲労度合いが変わってくる事を自覚し、必要なら労働環境を良い方向に向かうように変化させてあげましょう。
例えば、大きなストレスがかかる乗務員の訓練を「個人」で行うのか、同期の「チーム」で行うのかで変わってきます。
クルーのトレーニングなどでチームで行動させると、CRM (Crew Resorce Management) などを使い、疲労に関係した失敗を互いに補い減らすことが可能になるでしょう。
CRMトレーニングを行う他のメリットとして、「チームワーク」「Decisionmaking」「問題解決能力」「Situational Awareness」「コミュニケーションの質を向上」などがあります。
さらに、適切なシステムを導入することにより、アラートやワーニングを鳴らして、パイロットに知らせることができれば、問題の芽を小さいうちに摘み取ることが可能でしょう。
Fatigue Risk Management System (FRMS)
規範的なフライトやデューティータイムの設定などで、ある程度は疲労蓄積を抑えることはできますが、完全に取り除くことはできません。
何か重大インシデントやマイナートラブルが発生すると、航空会社は改善案を出し、再発防止に努めます。
しかし、何か発生したら何かそれを防ぐ手段を増やすのでは、年々規定が増えていき、規定だらけで縛られてしまいます。
航空機のオペレーションはとても複雑なものなので、パイロットをあまりギチギチの規定で縛り上げるよりも、ある程度選択の余地を残してあげている方が、パイロットの疲労は軽減されます。
【疲労によるリスクを防止する手立て】
- フライトやデューティータイムのスケジューリング
- 社員の健康法や睡眠の個別練習
- チームワークやリソースマネージメント
- エラーを防止するための手順やフライトシステムの確立
FRMSの導入
FRMSを導入するうえで大切なことは、定期的にデータを集め、分析ををして、その結果を次の行動に移せるようにすることです。
一度、FRMSの訓練を行い、睡眠改善の指導を行ったので、それで終わりというものではありません。
FRMSプログラムでは、コンピューターモデルとして人間の通常のパフォーマンスの期待できるアウトプットや、睡眠と起床のデータ、通常のサーカディアン・リズムなどのデータが取り揃えられています。
FRMSプログラムを導入した会社の一例は、「easyJet」「Air New Zealand」「United Airlines」「Continental Airlines」「the Australia Civil Aviation Safety Authority」「the Flight Safety Foundation」「ICAO:International Civil Aviation Organization」 などです。
「easyJet」のFRMSプログラムでは、疲労回復の効果が実証されましたし、「Air New Zealand」はFAAのシンポジウムでFRMSの有効性について発表しました。
まとめ
全6回に分けてご紹介してきた、「疲労」はいかがだったでしょうか?
シフトワーカーは特に、避けては通れない永遠の課題ではないでしょうか。
もし、仕事で最大のパフォーマンスを発揮するには、仕事以外でもいかに疲労を軽減できるか努力が必要です。
疲労軽減に一番に密接に関わってくるのは、睡眠でした。
パイロット訓練生などは何千ページにも及ぶ飛行機の取扱説明書を読んだり、会社の規定などを頭に入れたりと、ついつい頑張りすぎ、睡眠時間が削られがちですが、ただでさえ低いパフォーマンスがさらに下がってしまうので睡眠不足は注意が必要です。
今日から、少しでもいいベッドを購入したり、寝室の温度管理、睡眠時間の計測など、やってみるといいかもしれないですね。
【参考文献】
【過去の記事】
- 【生理学】パイロットの疲労とパフォーマンスの関係について⑤
- 【生理学】パイロットの疲労とパフォーマンスの関係について④
- 【生理学】パイロットの疲労とパフォーマンスの関係について③
- 【生理学】パイロットの疲労とパフォーマンスの関係について②
- 【生理学】パイロットの疲労とパフォーマンスの関係について①
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