【生理学】パイロットの疲労とパフォーマンスの関係について⑤

航空機のオペレーションでの疲労

疲労が航空機のオペレーションにどのように影響するのか研究がされました。

シミュレーターと実機でのフライトを使っての研究でしたが、両方とも疲労は神経系の機能に影響を与えることがわかりました。

【研究の成果の一部】

  1. 長距離輸送のパイロットは、ワークロードが低いときでも注意力が散漫になっていました。
    2名オペレーションでも、同時に注意力散漫になる時が観測されました。
  2. 実機での飛行中に脳の動きを観測したら、長距離輸送のオペレーションのパイロットは、「micro-sleeps」と呼ばれる、超短時間の仮眠をフライトの中盤から後半にかけて取っていることがわかりました。
    昼間飛行よりも、約9倍マイクロスリープは夜間フライトに発生しやすい結果が出ました。
    また、仮眠の時間もフライト時間が長いほど長くなっています。
  3. 着陸間近の緊張や集中力が高まり、モチベーションも上がっているにも関わらず、マイクロスリープが起こることがあったそうです。
  4. NASAが行った「リージョナルエアライン」のパイロットへの聞き込み調査で、1,424名のパイロットのうち80%(1,139名)がフライト中にウトウトした経験があると答えました。
    「法人用」や「役員用」の航空機のパイロットでは、1,488名のうち71%(1,056名)がウトウトした経験があるそうです。

疲労と関係する過去の事故

NTSB(国家運輸安全委員会)によると、1993年からの統計でアメリカでは7つの航空会社で、疲労が原因で事故が発生し、その影響で250名が犠牲となり、52名が重傷を負いました。

疲労が及ぼすパイロットへの一番の影響は、フライト中のどんなフェーズでもパイロットを眠りに導いてしまうことです。

13時間にも及ぶ長時間勤務では、それ以下のフライト時間と比べて事故率が高いようです。

また、起床してから長時間経過していると、意思決定など認知エラーが多くなる傾向があります。

【過去に疲労が原因とされる事故】

航空会社 年度 事故原因 結果
American International 808 1993 疲労による操縦能力、Decision-making、判断能力の低下 重症者:3名
Korean Air 801 1997 Non-precision Approachの準備・追行能力の不足 犠牲者:228名
重症者:26
American Airlines 1420 1999 オートブレーキとスポイラーの展開をしなかった 犠牲者:11名
重症者:45名
Federal Express 1478 2002 夜間フライトでGlide Slopeをフォローできなかった 重傷者:3名
Corporate Airlines 5966 2004 疲れとパイロットエラーのコンビネーション 犠牲者:13名
重傷者:2名
Shuttle America 2007 アプローチのプランとモニター不足でオーバーラン 犠牲者なし

まとめ

いくらモチベーションを上げて、特に着陸など一瞬の判断で左右する緊張する場面でも、疲労が溜まっていくと、急に眠気が襲ってきたり、マイクロスリープに入ってしまうことがあることがわかりました。

パイロットの7〜8割りもフライト中にウトウトしてしまっているのも、驚きの事実ではなかったでしょうか?

「1日」や「1ヶ月」のフライト時間の上限が決められていて、優遇されているように見えるパイロットですが、シフトワーカーとして疲労回復や効果的な睡眠を取るのがいかに難しいかがわかります。

もし、フライトクルー2人が同時にマイクロスリープのような状況に陥ってしまったら、とても危険な状況に陥ります。

まして、設置間際など意識やモチベーションにかかわらず、いつでも起こり得るという恐ろしさです。

昔も今も絶対に避けたいのは、航空機事故ですが、事故のリスクをあげてしまうときがあります。

それは:

気持ちでは眠気を抑えられなくなってしまう前に、なるべく早い段階で睡眠負債や疲労を取り除いてあげたいものですね。

【参考文献】

【次回の記事】

疲労は事故を起こす原因でもあることがわかりました。

では、疲労を軽減するにはどうしたらいいのか、次回見ていきましょう。

また、FRMSプログラムの事を知っていますか?

【過去記事】

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