パイロットが知っておくべき火山灰がもたらす飛行機への影響

活火山とは

活火山:昔又は現在活動・噴火している火山
休火山(死火山):現在噴火していない火山

活火山は、「昔又は現在活動・噴火している」火山のことです。昔といわれても、活火山の寿命はとても長いので、自らの幼少期の思い出よりもさかのぼります。火山は「活動」と「休止」を繰り返しているものがあります。このような火山の休止期間は、数百年から数千年単位となっています。

火山噴火予知連絡会によりますと、活火山の定義は以下の通りです:

概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山

火山噴火予知連絡会

この定義をもとに、日本では気象庁が集計を行った結果、2023年現在、日本にある活火山の数は「111」とされております。

出典:気象庁

日本にある111の活火山の中でも、今後100年程度の中長期的な噴火の可能性やその社会影響等をふまえて、50か所で常時観測が行われています。(下図赤色三角印参照)

出典:気象庁

これら50か所において、気象庁は「地震計」「傾斜計」「空振計」「GNSS観測装置」「監視カメラ」等の観測施設を整備し、火山の活動を24時間体制で観測・監視しています。噴火の前兆などが見られた際には、噴火警報等を発表し周知する仕組みが取られています。

≫参考:【火山】火山灰拡散予想図 (VAG)

≫参考:【火山】VAAテキスト報 (FVFE01)

≫参考:【火山】火山実況図 (VAGI)

≫参考:【火山】定時拡散・降灰予想図 (VAGFNR-AF)

※METARでは、火山灰は「視程障害現象」ではあるが、視程に関わらず「現在天気」の欄内で「VA」と報じられます。(METAR AUTOを除く)

≫参考:【METAR、METAR AUTO、SPECI、SCAN、TAF】各気象通報式の見方とその意味

火山灰がもたらす飛行機への影響

火山灰は、岩石が細かく砕かれた粒子で構成されており、一度大気に舞い上がると長時間浮遊する特徴を持っています。なので、激しい火山噴火により高くまで舞い上げられた火山灰は、風に乗り国境をまたいで多くのエリアへ影響を及ぼします。

2022年1月に南太平洋のトンガにある火山から発生した爆発的な噴火は、対流圏を飛び出し、中間圏まで達しました。気象衛星によると、火山灰は高度190,000ft(58km)に達し、これまでに観測された中で最も高高度まで影響を及ぼした噴火となりました。

火山灰は、以下の通り3種類に分類できます。

① 目視可能な火山灰
② 判別可能な火山灰
③ 目視不可能な火山灰

①目視できる火山灰

目視できる火山灰とは、観測者や航空機乗員が目で見ることができるものです。「日中の時間帯」「空の背景」「太陽の位置」「観察者(パイロット)から見た角度」など多くの要因によって異なりますが、目に見える火山灰は、灰の濃度が約0.01~10mg/m3程度の時です。

②判別可能な火山灰

判別可能な火山灰とは、衛星やその他の遠隔検出装置が検出するものです。世界9つのVAAC(Volcanic Ash Advisory Center)は、衛星から判別可能な火山灰情報を使用して、VAA情報を世界中に提供しています。衛星から判別可能な火山灰の空気中の濃度は、衛星やその他の要因によって異なりますが、約0.1〜0.2 mg/m3程度といわれています。

VAACは「London」「Toulouse」「Tokyo」「Darwin」「Anchorage」「Montreal」「Washington」「Wellington」「Buenos Aires」の9つのセクターで構成されており、日本の気象庁がTokyo VAACを担当する指名を受けました。

③目視不可能な火山灰

火山灰は、「夜間」や「気象条件が悪い場合(IMC等)」は、目視できないことがあります。目に見える火山灰でも、火山灰でできている雲と普通の水蒸気でできている雲を目視で区別するのは難しいです。

レーダーは、火山の近くの高濃度の浮遊火山灰を検出することができますが、細かい浮遊火山灰を検出することはできず、火山灰雲が火山から風下に広がるときなどは検出が困難になります。

パイロットとして、火山噴火情報を速やかに入手し、噴火口から風下側のエリア飛行しないようにする努力が必要です。

火山灰の構成とジェットエンジンへの影響

火山灰雲内の飛行はとても危険です。火山灰は、マグマの組成によって異なりますが、一般的には火山灰の約40%~60%は、ガラス質の「シリカ」で構成されています。シリカがジェットエンジンに吸い込まれると、高温で溶かされ「圧縮機タービンブレード」や「燃料噴射装置」にくっつき、冷却と共に蓄積されます。

これにより、エンジンへの空気の流れが遮断される恐れがあります。エンジンに空気が入らなくなると、燃料をうまく燃やすことが出来ず、ジェットエンジンはスプールダウンし、やがてフレームアウト(エンジン停止)してしまいます。

火山灰のエリアを抜け、シリカが硬化し、振動等でファンブレードなどから剥離し空気がエンジンに流入できるようになると、エンジンの再点火が可能になる場合があります。

ピストンエンジンへの影響

ピストンエンジン機では、その構造上ジェットエンジンのようなパワーの低下は引き起こりませんが、深刻なエンジンの損傷が起こる可能性が高くなります。

火山灰の研磨作用と腐食

火山灰の中を高速で飛行している航空機に対して、摩耗損傷を引き起こします。ウィンドシールドに衝突した粒子は、パイロットの視界を遮るほどの「擦りガラス状」になるまで、ガラス表面に傷を付けてしまいます。

更に、「レドーム」「リーディングエッジ」「ナビゲーション装置」などの塗装をも剝がしてしまうだけでなく、火山灰が水分と反応して、火山灰に含まれる「二酸化硫黄」が「硫酸」に変化します。これが、塗装が剥げた航空機の腐食を加速させます。

機内では、硫黄の燃えるときのような独特な刺激臭が立ち込めることもあります。

計器類への悪影響

火山灰の粒子が「航空機の換気システム」「油圧系統」「計器類」「電子機器」「気象データシステム」内に侵入し、悪影響を及ぼします。ピトー管などが詰まり、対気速度計の指示が不正確になることも考えられますし、スタティックポートが詰まれば高度計に影響が出るでしょう。

空港等に降り注ぐ火山灰の影響

火山灰は風に乗り多くのエリアに影響を出します。

滑走路に降り注いだ火山灰は、滑走路のマーキングを隠すだけでなく、離着陸時に航空機のグリップ力を損なう原因になり事故を誘発する可能性があります。

空港に降り注いだ火山灰により、空港が閉鎖されることもあります。

パイロットが学科試験で問われる火山灰の知識

【過去問】令和4年11月期/事業用操縦士/航空気象/学科試験問題15

ジェットエンジンでは、シリカが徐々に蓄積されていくためゆっくりとスプールダウンしフレームアウトにつながっていきます。エンジンを高推力にすることも推奨されていません。よって誤りは(1)の記述だと言えるでしょう。

【過去問】令和4年9月期/事業用操縦士/航空気象/学科試験問題17

(a)~(d)の記載はすべて正しいと言えるので、正答は(4)といえるでしょう。

参考文献