【風と対流と乱気流】パイロットが風の読み方と予測方法を習得するためのヒント

飛行機という道具を利用して、自然界を飛び回るパイロットにとって、風の読み方はとても大切です。離着陸滑走路は常に向かい風になるように変更されますし、機体の横風制限なども決められています。風との付き合いは切っても切れないのがパイロットという職業です。

突然ですが、「風」と「対流」の違いはご存じですか?

今回は、地球上でフライトをするなら知っておいて損はない「風」や「対流」についてみていきましょう。

風と対流の違い

大気は常に低圧を求めるため、高圧から低圧の地域に向かって空気が流れます。

図1. 高気圧と低気圧付近の風の流れ

「大気圧の差」「コリオリ力」「摩擦」「近接する空気の温度差」が組み合わさり、「対流(上下の動き)」と「風(横方向の動き)」という2種類の大気運動が引き起こされます。「離陸」「着陸」「巡航飛行」の操作に影響を与えるため、対流と風は重要な要素です。更に重要なことは、「対流」「風」「大気循環」が気象の変化を引き起こすことでです。

風のパターン

北半球では、高気圧領域から低気圧領域への空気の流れは右に偏向されます。高気圧の周りで時計回りの循環を生み出し、低気圧の周りでは反時計回りの循環を生成します。空気は低気圧方向に流れ、サイクロン循環(反時計回りの循環)を作るように偏向されます。

高気圧は、一般的に乾燥した下降気流の領域です。このことから、高気圧領域では晴天がもたらされる傾向にあります。逆に、空気が低気圧領域に流れ込み、上昇気流に置き換わる空気は通常、「雲」や「降水」をもたらします。したがって、低気圧領域は一般的に悪天候に関連しています。

パイロットがこのことを知っていると、飛行計画段階から有利な「追い風」「気象条件」等を利用するように計画立てられます。

図2. 高気圧と低気圧間の有利な追い風

図2のように、高気圧と低気圧の間を通過するようなプランニングを立てると、追い風がより経済的なフライトの後押しをしてくれます。また、より高気圧付近を飛行する事により、より天気が恵まれた中で飛行する事も可能になるでしょう。

このような大規模な大気循環と風のパターンの理論は正しい一方、局地的な大気の循環は考慮されていません。「地域の条件」「地形的特徴」「その他の特異状況」により、地球の表面付近で風向風速が変わることがあります。

関連記事:【対流】大気循環:パイロットのための基礎知識

対流

地球表面の状態や成分によって、地球の温められ方に差が生じます。「耕された土地」「岩肌」「砂地」「荒れ地」などは太陽エネルギーを素早く吸収し、大量の熱を放出することができます。一方、「水」「木々」「その他の植生地帯」は、熱をよりゆっくりと吸収し、ゆっくりと放出します。この不均一な加熱により、局所的に対流が生まれます。

図3. 局所的対流(サーマル)

図3.のように、温められやすエリアでは、より多くの太陽熱を地面が吸収し、その周りの空気を温めた結果、上昇気流を生み出します。低空飛行していると、この上昇気流に機体がぶつかり、より多くの振動を生み出すこととなるでしょう。

多くの場合は、より高い高度を飛行する事により回避することは可能です。

水と陸が隣接する海岸沿いや大きな湖の近くでは、「海陸風」と呼ばれる現象がよく見られます。

海陸風

海陸風は局地風と分類され、その影響範囲は比較的狭く、数十km~100km程度で、風向は「偏向力(コリオリの力)」の影響はほとんどなく、地形や気圧傾度に左右されることが多いです。

「海から吹く風」と「陸から吹く風」の現象をまとめて、「海陸風」と呼びます。

海陸風は非常に局所的な現象なので「地上天気図(ASAS)」などで確認できる気圧場からは、説明ができない方向に風が吹くことがあります。

海風(Sea Breeze)

対流は、「海」「大きな湖」「その他の大規模な水域」に隣接する陸地がある地域で特に顕著です。日中、陸地は水よりも早く加熱されるため、陸地の空気はより暖かくなり、密度が低くなります。この密度の低い暖かい空気は上昇をはじめ、この空いたエリアに水上からより冷たく密度の高い空気が流れ込みます。海の方から陸地に向けて吹く風なので、海風と呼びます(図4上段参照)。

これは地上付近の話で、上空では気圧の影響が反対になるので、逆の方向に向かう風(反流)が吹いています。

図4. 海陸風(上:海風、下:陸風)

陸風(Land Breeze)

陸地は水面よりも早く冷える特徴があるため、夜には陸上の空気もより早く冷やされます。この時、昼と夜とでは逆転の現象が起きます。夜では、水の方が冷めにくいので、水面付近の方が暖かく密度が低くなり、冷めやすい陸上の空気はより冷たく密度が高くなります。なので、夜には陸の方から海に向けて風が移動しようとします。これを陸風と呼びます(図4.下段)。

海陸風のポイント

これらの現象は、地面の温められ方が不均一なところならどこでも発生しますが、曇りの日など太陽のエネルギーが十分に地上に注がない日などは、その威力は弱くなります。

比較要素海風陸風
発生日時日中夜間
影響範囲:高さ約数百~3,000ft約1,500ft
風速10kt(5m/s)前後~10kt(~5m/s)程度
表1. 海陸風の比較

上記表1.からもわかるように、通常日中に発生する「海風」の方が夜間に発生する「陸風」よりも影響範囲が広く、より強い風が吹きます。これは、陸地と海面の最大の温度差の違いによるものです。「日中に最大まで陸地が温められたときの陸地と海面との温度差」と、「夜中に陸地が冷え切ったときの陸地と海面との温度差」を比べたとき、前者の方が温度差が大きくなることから生じる差です。

海風の方が威力が強いと言っても、両者とも10kt程度の威力ですので、低気圧の荒れた天候では確認することは難しいでしょう。しかし、高気圧圏内の比較的風の弱い日に、海岸付近に位置する空港のMETAR等を見ていると、180度風向が変わるので、海風・陸風を確認することが可能です。

日本の空港と位置

海風と陸風が入れ替わるとき、風が一瞬やむときがあります。これを凪(なぎ)と呼びます。発生する時間帯によって「朝凪」「夕凪」と呼ばれています。

パイロットが知っておくべき海陸風の知識

海陸風について学びましたが、JCABの航空従事者等学科試験では、どのような知識が問われているのか見てみましょう。

【過去問】令和5年3月期/自家用操縦士/航空気象/学科試験問題6

上記「海陸風のポイント」を見ての通りですので、(4)の記述が誤りといえるでしょう。

【過去問】令和4年7月期/自家用操縦士/航空気象/学科試験問題6

日中は陸地の方が海面よりも温められるので、陸地で上昇気流が発生し、その空いた場所に海からの風が流れ込みます。よって、誤りは(1)といえるでしょう。

【過去問】令和4年7月期/事業用操縦士/航空気象/学科試験問題7

(a)~(d)の説明は全て合っているといえるので、「(4)4」が正答といえるでしょう。

航空従事者等学科試験に興味がある方は、以下のURL先で過去問練習が出来ます。
【過去問道場】航空従事者学科試験過去問練習

季節風

海陸風は日中と夜の約半日単位で入れ替わりますが、ユーラシア大陸と太平洋間などより広範囲で影響するものは、約半年単位で風向きが入れ替わります。

季節によって吹く方向を変える風を季節風と呼びます。季節風は、陸地面積が大きいほど、また高緯度地方ほど顕著です。

夏場、太陽の高度が高くなると、ユーラシア大陸ではより太陽のエネルギーを受け取り、太平洋上空の空気より暖かくなります。この不均一な状態を元に戻そうと、太平洋や日本海からユーラシア大陸目掛け、空気が移動し始めます。

太平洋高気圧から西に位置するユーラシア大陸に向けて風が移動する際に、コリオリの力と摩擦力で偏向された南東季節風が日本では吹く傾向があります。

これは、梅雨をもたらす原因の一つとなっています。

逆に、冬になると太陽の高度が低くなります。そうなると、ユーラシア大陸はエネルギーを集めにくくなり、太平洋の方が陸地よりも暖かくなります。これにより、ユーラシア大陸から日本海・太平洋に向け風が吹くようになります。

冬はユーラシア大陸が大きな高気圧に覆われ、そこから東の北太平洋に向けて吹き出す風にコリオリの力と摩擦力で偏向された北西季節風が吹きます。

日本列島では、日本海側に大雪をもたらす季節風が吹く要因となっています。

パイロットが知っておくべき季節風の知識

JCABの航空従事者等学科試験では、どのような季節風の知識が問われているのか見てみましょう。

【過去問】令和5年3月期/事業用操縦士/航空気象/学科試験問題11

陸地と水面を比べたら、陸地の方が温まりやすく冷めやすい特徴があります。なので、夏場の太陽の熱が集めやすい時期は、陸地の方が海水よりも暖かくなる傾向があります。よって、(2)の記述が誤りであると言えるでしょう。(同様の問題が令和5年1月期問10でも出題されています)

航空従事者等学科試験に興味がある方は、以下のURL先で過去問練習が出来ます。
【過去問道場】航空従事者学科試験過去問練習

積乱雲中の乱気流

対流圏内では、下層から上層に向かうにつれ約2℃/1,000ftの割合で気温が低下していきます。この割合が一定だと大気は安定しますが、真夏の太陽の影響などにより一部が急激に温められ、大気のバランスが崩れることがあります。これにより対流性の上昇気流や下降気流が生み出されます。この気流は通常 2~10kt(1~5m/s)程度ですが、時に 20kt (10m/s)を超えることがあります。

関連記事:【10種雲形】10種類の雲の種類とその特徴

中層雲雲底乱気流

中層雲は、通常、高度2,000m~6,000m(6,500ft~20,000ft)の間に形成される雲です。中層雲の雲底に乱気流が発生することがあります(雲低から数千ft程度の幅)。これは、「中層雲付近の湿度」と「中層雲の下に位置している乾燥した空気の湿度」の差から、不安定な状態が作り出されるためです。

何事もそうですが、似通った性質のものが近くにあれば安定し、性質が違うものが近寄れば、同じような性質になろうと動きが活発になります。

中層雲から降水などで乾燥した空気層に湿度が提供されます。そうなると、水分が昇華するなどして、乾燥した空気層内の温度が下がります。このようにして、気温のバランスは崩れていくのです。

山岳波による乱気流

山岳波とは、山岳地形によって引き起こされる水平風の乱れによって、風上側(山側)から風下側(山裾側)に振動する現象です。

山岳波の波長と振幅は、周囲の地形に対する「山・山脈の高さ」「風速」「大気の不安定度」を含む多くの要因に依存しています。山岳波の形成は、以下の条件が揃った場合に起こります:

  • 風向が、尾根に対して垂直方向から30度以内であり、その高度帯で風向が変わらないこと
  • 尾根の頂上付近での風速が15ノットを超え、高度と共に増加する。
  • 丘や山の障害物のすぐ上に、逆転層(※1)がある。

尾根(おね)とは、山頂と山頂とをつなぐ、みねすじ。また、谷と谷の間の突出部の連続。おねすじ。

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日本列島の中心には富士山をはじめとする高い山々が軒を連ねています(富士山、日高山脈、奥羽山脈、鈴鹿山脈、紀伊山地、四国山地、九州山など)。このような山・山脈を越えて吹き付ける風が発生するときは、パイロットは特に注意しなければなりません。

山岳波は、風下側に約100~200kmまで影響することがあるからです。現在の日本の玄関口といわれている、「成田空港」や「羽田空港」関東平野に位置しています。日本では、冬型の気圧配置(西高東低)になると、北西の風が強く吹き付けるようになり、関東平野上空の航空機の運航に重大な影響を及ぼす傾向にあります。

出典:東京航空地方気象台

上記図は、2011年1月9日午前9時~午後6時までの間で、関東地方上空で発生した乱気流の発生場所とその強度を示しています。一見近くに山がない関東平野ですが、山岳波の影響は及んでいるのです(特に羽田空港の周りが多く発生している)。

山脈を空気が上昇する過程で冷やされ、日本海側で大雪をもたらします。これにより、空気が乾燥するので、乾燥した風が関東平野に吹き下ろします。

この結果、雲ができにくいので、山岳波を目視確認するのが困難になります。特に冬場に山岳波はできやすい傾向にあるため、大気が乾燥していることが多いです。

逆に、大気が湿っている場合に山岳波が発生した場合は、風下側に「ロール状」や「レンズ状」の雲ができるので、目視で山岳波の存在を確認することが出来ます。また、山頂には「笠雲(かさぐも)」とよばれる、帽子のような雲が発生することもあります。

山岳波の影響範囲とそれに伴い発生する雲

※1.逆転層

逆転層とは、通常なら下層から上層にかけて気温は低下するが、逆に上昇している状況を指します。安定層という言葉もあり、上層にかけての気温の下がり具合が緩やかな気層のことを指しています。

逆転層では、対流が起こらず大気は比較的安定しています。その発生する場所や方法により呼び方が変化するので、いくつか見ていきましょう。

冷気の上に暖気が重なって前線面を作る場合にできる逆転で、前線の存在により「下層に寒気」「上層に暖気」が来るために発生するすることを「前線性逆転」と呼びます。

晴れた日などの夜間、放射により地表面の気層が冷却されて出来るものを「接地逆転」と呼びます。接地逆転は別名「放射性逆転」ともよばれています。この逆転層は地面から形成され、あまり上空までは発達せず、朝になって太陽の熱が地面に加わると逆転は解消する傾向にあります。

高気圧の下降気流により空気が沈降し、断熱圧縮の昇温によって地表面から離れた高度に逆転層ができることがあります。高気圧下なので通常は晴天であり、上層の乾燥空気で形成されている層なので、逆転層の気温と露点温度の差は下層に比べて大きく開いています。

パイロットが知っておくべき山岳波の知識

【過去問】令和4年11月期/自家用操縦士/航空気象/学科試験問題13

今まで見てきた通り、山岳波により「レンズ雲」「笠雲」「ローター雲」が発生するので、「(2)乱層雲」が誤りといえるでしょう。

【過去問】令和4年7月期/事業用操縦士/航空気象/学科試験問題14

山岳波は、山脈に垂直に近い風向(垂直~約30度)で発生しやすいです。よって、(1)の記述が誤りといえるでしょう。

航空従事者等学科試験に興味がある方は、以下のURL先で過去問練習が出来ます。
【過去問道場】航空従事者学科試験過去問練習
 

晴天乱気流(CAT : Clear Air Turbulence)

晴天乱気流は、ジェット気流や山脈の近くで発生しやすい乱気流で、大幅に速度が違う空気塊同士が衝突することで、発生します。日本語で晴天乱気流ですが、英語で「CAT:キャット」と呼ばれることも多いです。

日本上空を通過しているジェット気流は、「北上南下」や「途中で蛇行」することもあります。この際に、移送速度が速いジェット気流とそれ以外の空気との速度差が大きく生まれ、乱気流が発生するメカニズムとなっています。

晴天乱気流の影響範囲は、厚さ500~2,000ft程度、長さ100km程度であると言われています。晴天乱気流の影響はとても強力なもので、一度航空機が巻き込まれると操縦不能に陥る事さえあるので、パイロットは細心の注意を払う必要があります。

晴天乱気流の兆候としては、以下の点が挙げられます。

  • 青空に突然小さな雲が現れる:これは、気流の不安定さを示している可能性があります。
  • 周囲の風景に乱れが現れる:風景が揺れたり、風によって形が変わったりすることがあります。
  • 突然の気温変化:1分以内に1℃以上変化する。(デジタルSAT計を搭載の機体では、0.1℃の桁が不規則な動きを見せることがあります。)
  • コックピットで小刻みな振動を感じる
  • 風速が急激に変化する
  • 気圧が急激に変化する

前線による乱気流

前線は気団と気団のぶつかるところに発生します。この気団とは、気温、湿度、気圧、風向・風速などの要素が異なる空気の集まりを指します。

この違いを埋めようとして、気団の境目である前線では、大気が不安定になります。パイロットが知っておくべき前線の知識を以下のサイトでまとめてあるので、興味がある方はご一読ください。

関連記事:航空気象学における前線:その定義と対処法

低高度での乱気流

地上の障害物が風の流れに影響を与え、目に見えない危険を引き起こすことがあります。地形や大きな建物は、風の流れを妨げ、風向きや風速が急激に変化する突風を引き起こす可能性があります。

これらの障害物には、「ハンガー」などの人工構造物から「山」「崖」「峡谷」などの大きな自然の障害物までが含まれます。特に、滑走路の近くに大きな建物や自然の障害物がある空港で飛行する場合には、警戒が必要です。

低高度で発生する乱気流

後方乱気流(ウェイクタービュランス)

飛行機の翼は、翼上面と下面の気圧の差を利用して揚力を生み出しています。ここでも、圧力の差が生じているので、これを元に戻そうとする力が働きます。

気流は、気圧の高い方から気圧の低い方へと移動します。後方乱気流の場合は、機体が揚力を生み出すと、翼下面から翼上面へ向け気流が動き出し、それが渦のようにして後方に一定時間残り続けます。

ウェイクタービュランス

より強い後方乱気流が生み出される条件など詳細について興味がある方は、以下のURLから続きをお読みいただければ幸いです。

関連記事:【後方乱気流】翼端渦流の恐怖を知り安全な飛行を心がける!

参考資料