【着氷②】環境や形状による着氷のし易さや尾翼失速について

【着氷②】環境や形状による着氷のし易さや失速について

着氷しやすい環境

着氷のし易さは、飛行機が通過する空の環境によって変わってきます。

AOPAによると、次のように着氷のし易さを分類できます。

「High:着氷の可能性が高い」、「Med:中間」、「Low:着氷の可能性は低い」

【積雲系の雲(Cumulus Clouds)】:

  • High:0〜20℃
  • Med:-20〜-40℃
  • Low:-40℃以下

【層状の雲(Stratiform Clouds)】:

  • High:0〜-15℃
  • Med:-15〜-30℃
  • Low:-30以下

【雨や霧雨(Rain and Drizzle)】:

  • High:0℃以下

着氷のしやすい形状

氷のつきやすさは、物の形状により違います。

  • 氷がつきやすい:薄いものや、先が尖っているもの
  • 氷がつきにくい:分厚いものや、鈍角なもの

主翼よりも尾翼の方が、薄い事が多いので、主翼前面に着氷しているのが確認できたなら、尾翼にはより多くの着氷が予想されます。

尾翼は主翼の約2〜3倍も氷が蓄積しやすいと言われています。

尾翼もある一定以上氷の蓄積があると、失速します。

主翼の失速よりも、尾翼の失速の方がよりクリティカルになるでしょう。

パイロットの試験に、尾翼の失速の対処方法などが含まれていないので、多くのパイロットは、尾翼の失速のリカバリー方法がわからないでしょう。

主翼が失速した時のリカバリーの手順と、尾翼が失速した時のリカバリーの手順が全く逆なのもリカバリーを難しくする一つでもあります。

実際に、 尾翼の失速により墜落している旅客機もあります。

また、アンテナやワイパーは比較的先が尖っているので、着氷の前兆を捉えるのに便利です。

尾翼の失速とは?

尾翼の失速とは、どういう状態なのでしょうか?

上記左図は通常飛行している時の、小型単発機の状態です。

通常エンジンなどの一番重たい部分がノーズに入っており、揚力の中心(Center of Lift)が唯一上向の力を出し、尾翼がこの二つのバランスを保つように下向きの力で支えています。

なので、「ノーズの下向きの力」と、「リフトの上向きの力」だけを比べると、若干「ノーズの下向きの力」が勝るように、ノーズ側が重たくなるように設計されています。

旅客機なども、主翼を少し後ろ側につけるなどして、ノーズが重たくなるように設計されているので、原理はほぼ一緒です。

しかし、尾翼が失速してしまうと、上記右図のように、尾翼を下に押さえつけておく力がなくなってしまうので、機首が下がってしまいます。

これにより、地面に真っ逆さまになってしまうので、特に低高度飛行している時は、リカバリーの猶予がなくなってしまうのがとても恐ろしいです。

失速時の懸念点

アイシングにより、翼の迎角は小さく、比較的速いスピードで失速すると前回お伝えしました。

【着氷①】何が怖いのか?影響は?アイシングエリアの通過について

いつもと同じようにアプローチしていては、失速する可能性が高くなります。

なので、アプローチスピードを増速してあげる必要があります。

この時の懸念点は、「何kt速度を増せばいいの?」と思うかもしれないでしょう。

その答えは、飛行機により違うので一概には言えません。

それぞれの答えは、使用している機材のPOHなどに書かれているので、一度隅々まで目を通しておく事をお勧めします。

さらに、着氷は両方の翼にバランスよく着氷するとは限りません。

水分量と温度によって、着氷する速度や量が変わってきます。

なので、片側の翼だけ着氷が大きく進み、片側の翼だけ失速してしまうことも考えられます。

また、翼は厳密には左右違う厚さになっている事もあります。

先ほどのように、氷はより薄いものにくっつきやすいので、その点においても片側だけ着氷の影響を及ぼす可能性もあるのです。

このように、アンバランスな着氷により失速を引き起こすと、体制を戻すのは容易ではありません。

尾翼失速からのリカバリー方法

尾翼失速からの回避方法は、主翼の失速の回避方法とは違うと触れましたが、実際にどのようにするのでしょうか?

まず、失速する前に気がついて、対処するのが先決です。

尾翼失速が引き起こる前の兆候が2つあります:

  • フラップを下ろした時に通常とは違う反応を機体がする
  • 操縦桿に振動を感じる(機体からではなく、操舵面からの振動|Fly-by-wireではできない)

もし、このような兆候に気がつけず、尾翼失速が起こってしまったら:

  1. フラップを失速前の位置に戻す
  2. 操縦桿を強く引く(主翼の失速と逆操作)
  3. 高度が高ければ出力を落とす(低高度飛行なら現状維持|主翼の失速と逆操作)
  4. 速度を増やさない(主翼の失速と逆操作)

と行動しましょう。

手順はたったの4つかもしれませんが、主翼の失速と大きく違う点が3点もあるので、とっさに尾翼失速が起こると頭がパニックになってしまうのではないでしょうか。

普段の訓練などで、主翼の失速などの練習をする機会が多いので、失速したと思ったら体が勝手に「Pitch Down」「Cut Horizon」「Increase Power」「Recovery」などと動いてしまったら、尾翼失速からは抜け出せず、地面にあっという間に激突してしまう事でしょう。

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