【着氷】何が怖いのか?影響は?アイシングエリアの通過について

アイシングコンディションの中、飛行した事はありますか?
アメリカの統計によると、1990年から2000年の約10年間で起きた航空機の天気が関係する死亡の中で、全体の12%がアイシングコンディションであった事がわかりました。
今回は、航空機の事故原因の上位でもある着氷について見ていきたいと思います。
着氷の恐ろしさ

飛行中にアイシングを引き起こすと、翼の上面を流れる気流がスムーズに流れなくなってしまいます。
「リフト」が減少してしまい、同時に「ドラッグ」が増加してしまいます。
また、飛行機の重さも氷の分増加します。
アイシングにより、減少したリフトと増加したドラッグを、迎角(Angle of Attack)をより大きく取ってあげて、更にパワーで補ってあげる必要があります。
パワーにも限界はありますし、燃料をより多く消費するので燃費が悪くなり航続距離も縮まります。
基本的にアイシングは、航空機の前面に付着します。
例えば、「翼」「プロペラ」「ウィンドシールド」「アンテナ」「ベント類」「インテイク」「カウル」など、ありとあらゆるものの進行方向前面に着氷します。
アンチアイスやディアイスシステムの機構が取り込まれている場所への着氷は対処できますが、そのほかに着氷するととても厄介な事になるでしょう。
例えば、細いアンテナには着氷がしやすく、アンテナが大きく揺さぶられ、最悪根元から折れて通信が途絶えてしまうこともあります。
特に小型機が「Moderate」や「Severe」の着氷状態の中飛行すると、目的地までたどり着く事は不可能でしょう。
着氷が進むと、高速飛行中の迎角が通常失速する角度よりも小さい時でも、失速が起きる可能性があります。
一度失速をしてしまうと、「ロール」や「ピッチ」の制御がとても難しくなります。
また、エンジンへの吸気口への着氷、キャブレターアイシングなどが弾き起こると、最悪エンジンが停止してしまう事でしょう。
アイシングのフライトへの影響

着氷の種類を、その見た目や氷の性質から3つに分類する事ができます。
- Rime Ice: 白身がかった色で、表現はざらざらし、航空機に衝突した瞬間に凍りつくので、放っておくと進行方向側に向かって山盛りに氷が膨らんで行きます。
このタイプの氷は、アンチアイシングシステムなどで氷の除去が、比較的容易にできるのが特徴です。 - Clear Ice (Glaze):名前の通り、透明な氷で、概ね表面はツルツルしており、所々ゴツゴツとした半透明な氷の箇所も見受けられます。
機体にぶつかってもすぐに凍らないので、表面上を水滴が流れるように着氷してしまうので、比較的広い面が氷で追われてしまいます。
また、「Clear Ice」は、「Rime Ice」と比べて、より密度が高く硬いので除去が大変です。 - Mixed Ice: 「Mixed Ice」は、「Rime Ice」と「Clear Ice」のコンビネーションです。
アイシングは、最大揚力を小さくしたりドラッグを増やしたりするので、飛行機のハンドリングに影響が出てきます。
風洞実験実験の結果によると、「Leading Edge」や「翼上面」に『ヤスリ』ぐらいのざらつきの着氷が起きると、リフトは「約30%」減少し、ドラッグは「約40%」増加したそうです。
さらに着氷が進むと、リフトはさらに減少し、ドラッグは80%以上まで増えてしまうのです。
アイシングコンディションに対応した航空機でも、アンチアイシングシステムの手が届かないところまで着氷する事があります。
そうなってしまっては、もう上空では手も足も出なくなってしまいます。
ちなみに、全ての防除氷装置を作動させて、除氷できるところは除氷しても、トータル30%ものドラッグが増えてしまっている状態だそうです。
多くの航空機の「アンテナ」「フラップヒンジ」「fuselageの前方」「ワイパー」「ストラット」「ランディングギア」などは、防除氷装置が取り付けられていない事が多いです。
アイシングは、機体の表面が0℃以下で水分がある時に発生します。
水分が発生しているところは、雲のように目に見えます。
雲は「Dry Clouds」と「Wet Clouds」に分けられます。
「Dry Clouds」は、比較的水分が少ない雲のことを指し、水分が少ない分アイシングの可能性も低くなります。
【「Dry Clouds」と「Wet Clouds」ができやすい地域】
- Dry Clouds:ノースダコタ州(冬がとても寒い)
- Wet Clouds:ペンシルベニア州、ニューヨーク州
フロントや低圧部が、アイシングコンディションを作り出しやすいエリアです。
小型機にとって、アイシングコンディションの中、「にわか雨」や「霧雨」は大敵で、このエリアに入ると数分で制御不能なぐらい凍りつく危険性があります。
また、粒の大きい水滴が機体にあたり凍ると、機体の後ろの方まで着氷が進んでしまいます。
着氷性の雨が降り落ちてくると、着氷域を飛行しているときだけでなく、「アプローチ」「ランディング」「駐機」「テイクオフ」時などにも影響が出てしまいます。
着氷域の通過

出発前のウェザーブリーフィングで、着氷域を避けるようにプランを立てる事ができたら、それほど望ましい事はありません。
しかし、いくら完璧な飛行計画を立てたところで、天気は刻一刻と変化し、思わぬところで着氷域に飛び込んでしまっている可能性もあります。
そんな時は、最短距離で着氷域を通過できるように心がける必要があります。
少しでも長く着氷域に留まっていると、それだけ多く着氷の影響を受けてしまうからです。
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【参考文献】