【航空機事故】エア・カナダ624便着陸失敗事故

事故機2015年の様子:By Aseem Swarup Johri

【航空機事故】エア・カナダ624便着陸失敗事故

概要

  • 日付:2015年3月29日
  •  航空会社:エア・カナダ
  • 使用機材:A320-211 (機番:C-FTJP)
  • 乗員乗客:
    • 機長:ATPL保持 – 総飛行時間11,765時間(A320:5,755時間)
    • 副操縦士:ATPL保持 – 総飛行時間11,300時間(A320:6,392時間)
    • 客室乗務員:3名
    • 乗客:133名
    • 犠牲者:0名
  • 出発地:カナダ トロント•ピアソン国際空港 (CYYZ)
  • 目的地:カナダ ハリファックス国際空港 (CYHZ)
    • 出発前のCYHZの予報:Wind350/15G21 VISI 1/2SM Moderate Snow, Drifting Snow, -5℃
    • Elevation : 449ft
  • 代替空港:モントリオール・ピエール・エリオット・トルドー国際空港 (CYUL)

この便を担当した操縦士は、共に総飛行時間10,000時間を超える経験を持っておりました。

CaptainがPFを担当し、First OfficerがPMという役割分担でした。

しかし、お互いが一緒に飛ぶのは今回が初めてでした。

フライトプラン上では、トロント•ピアソン国際空港 (CYYZ) からハリファックス国際空港 (CYHZ)までは、FL350を飛行して、2:09分の道のり予定でした。

エア・カナダ624便は2015年3月28日の22:05分にカナダのトロント•ピアソン国際空港 (CYYZ)を飛び立ちました。

出発前の段階で気がかりだったのは、目的地であるハリファックス国際空港 (CYHZ) の天候でした。

激しく降り続く雪のせいで、視界がアプローチするのにギリギリの1/2 SMしかなかったからです。

なので、操縦士二人は代替空港をモントリオール・ピエール・エリオット・トルドー国際空港から、より目的地に近いグレーター・モンクトン・ロメオ・ルブラン国際空港に変更し、目的地上空で少しでも長い間天候回復を待つため、上空待機する燃料を確保しました。

クルーズ飛行中も特に問題なく運航されておりました。

氷点下の天候などとても寒い時は、空気が収縮しています。

気圧高度を補正してあげないと、同じ気圧高度1,000ftでも空気が収縮している分、寒い時の方が真高度が低くなっています。

この気温により発生する誤差は、地面に近いととても危険です。

寒い時期や地域でJeppesen Chartなどに書かれている、FAFやMDAの値をそのまま使うのではなく、Cold Temperature Correctionと呼ばれる補正を、FAF (Final Approach Fix)とMDA (Minimum Descend Altitude)にかけてあげる必要があるのです。(離陸時にはThrust Reduction Altitudeにも)

両操縦士は着陸の準備の際に、この補正を正しくかけました。

その結果は:

  通常 補正後
FAF 2,000ft MSL 2,200ft MSL
MDA 740ft MSL 813ft MSL
Path -3.08° -3.5°

23:11 この時のMETARでは、VISI 1/4 SM, Heavy Snowと報じられておりました。

エア・カナダのOperations Specificationでは、VISIが1/2SM以上でないと、アプローチを開始してはいけないと決めらており、VISIが回復するまで上空で待機が必要となりました。

出発前から目的地の天候が着陸にギリギリであることがわかっていたので、両操縦士は特に慌てることなく、できる準備をこなしていきました。

二人は、最大29日の1:00まで天候回復のためのHoldingができることをブリーフィングしておりました。

管制機関から、目的地空港の視界はVISI 1/4 SMで、空港の除雪作業が進行中との連絡を受け、CETTYというFixでHoldingを開始しました。

今回は風向風速により、着陸滑走路はRWY 05で、アプローチタイプはLocalizer RWY05 Approachであることが予想されます。

ハリファックス国際空港 (CYHZ)は滑走路が4本ありますが、ILSはRWY05には付いていないので、天候が悪いにも関わらずNon-Precisionを行わなければいけなかったのです。ちなみに、RWY 05ではNDB ApproachかLocalizer Approachのみが有効です。

00:07 機長は副操縦士に後20分待機してみて、目的地の天候が回復しなければ目的地を変更する旨を伝えました。

00:09 METARではVISI 1/8SM Wind 360@20G25, Heavy Snow, Drifting Snow, Vertical Visibility 300ftと発表されました。(VISI 1/2SM以上になるのを待っているので、この段階ではまだアプローチが開始できません)

00:13 TowerからMETARのVISI 1/8 SMは間違いで、VISI 1/4SMが正しく、VISI 1/2 SMぐらいまで現段階で見える時があるとの報告を受けました。

00:16 SPECIが発表され、VISI 1/2 SM, Snow/Drifting Snow, Vertical Visibility 300ftと報じられました。

通常使用するMETARは飛行場実況と区分され、飛行場の周辺の天気を実況してくれています。この飛行場実況は大きく分けて二つあり、「METAR」と「SPECI」です。METARは大きい空港では30分おきに、それ以外では1時間おきに定時的に発表されます。しかし、その30分から1時間の間で、大きな天候の変化があれば、臨時で発表した方がいい時があります。その時は「SPECI」という形で発表されるのです。ちなみに日本語でMETARは、定時航空実況、SPECIは指定特別航空実況と呼ばれます。
このSPECIの発表でエア・カナダ624便は、アプローチが開始できる視程に回復しました。
00:22 エア・カナダ624便は、視程が悪い雲や雪の中を抜けた際に空港の位置を少しでも早く・遠くから確認するために、Landing Lightをoffのままアプローチし、管制塔にRWY LightのセッティングがLevel 5であるか確認しました。管制側から、現時点ではLevel 4だが着陸までにLevel 5にすると返答がきました。
視界が悪い中飛行する際には、ストロボライトやLanding Lightは乱反射を起こして、外が見えづらくなったりするので、こういう際には両ライトは消灯したままアプローチすることが多いです。空港のRWY Lightの光度は3段階か5段階に分けられており、数字が大きくなるほど明るいです。
00:23 3,400ft MSL:Thresholdから12nmの地点で一旦Level Offし、Localizer Track ModeをOnにし、「Flaps 1」 でした。
00:24 Thresholdから11nmの地点で、「Flaps 2」にして、LocalizerのコースにInterceptするために、管制機関から左旋回の指示がきました。
00:26 Thresholdから8nmの地点で、「Gear Down」と「Landing Checklist」を行い、2,200ftで一度Level Offしました。この際にMissed Approachの高度に高度計をセットし、TWRは除雪車に滑走路から出るように指示をしました。
00:27 Thresholdから6.7nmの地点で、「Flaps 3」「Flaps Full」を行いました。
FAFに対して2.7nmの地点で、PFがVS/HDG modeからTRK/FPA Modeに変更し、PMがFAFに対して「0.5nm」「0.4nm」とカウントダウンを開始しました。「0.3nm」とカウントした際にPFがFPA -3.5°をセットしました。
TRK/FPA Modeで-3.5セット:By TSB of CANADA
それと同時に、Towerから「Cleared to Land RWY 05」とLanding Clearanceをもらいました。PMが雲の隙間から地上のLightingがかすかに見えたと報告しました。
FAFに対して「0.2nm」で降下開始し、FAFは2,170ftで通過しました。
計算していたFAF通過高度2,200ftよりも30ft低かったです。降下率は700 ~ 800fpmでした。
エア・カナダ624便のフライトパス:By TSB of CANADA
00:29:27 Thresholdから1.2nmの地点で、RA (Radio Altimeter)の400ftのAuto call outが鳴り、その直後MDAを通過しました。PMはMDAに達したのと、空港のLightingだけが見えたので、「Minimum, Lights only」とCall Outしました。
Thresholdから1.0nmの地点で、PFもApproach Lightのいくつかが見えてきたので、「Landing」のCall Outをし、Missed Approachではなく、着陸する意思表示をしました。
しかし、この時MDA 740ftを通過したのは、通常よりも0.3nm手前であったため、降下パスに対して低くなり過ぎていました。まだAuto Pilotは入れたままで、降下率も700 ~ 800fpmをkeepしていたのでパスを浅くできず、このままいけば滑走路のはるか手前で接地してしまう状況です。
Thresholdから0.7nmの地点で、両操縦士はApproach Lightが見えたことを確認しました。
00:29:47 PMはLanding LightをOnにしました。その時、RAの「100ft」のAuto Callがなりました。それを聞いてPFはAutopilotをDisengageし、Manual Landingに取り掛かりました。
RAの「50ft」のAuto Call Outを聞いた直後、PMが低すぎるのに気がつき「Pull Up」のCallを入れました。
PFは地面接地1秒前にSide Sitckを最大に引っ張って、Thrustを最大のTO/GAに入れました。
しかし、機体はすぐにはPathを変えられず RWY05の262m (861ft)手前で左側のメインギアと地上のアンテナと空港の送電線に接触しました。
00:30:00 メインギア、胴体後方下部、左EngineのCwolingが雪の積もった地面に激突しました。
胴体下部のダメージ:By TSB of CANADA
機体は1度浮き上がるものの、ローカライザーアンテナにぶつかり地上に2度ほどバウンドするような形になりました。
そのまま地面を滑るような形で滑走路に進入し、Thresholdから1,900ft奥で機体は止まりました。
機内の電気系統は故障したため、Emergency Lightがアクティベイトされました。Cabin内ではキャプテンからの緊急脱出の指示はなかったが、17-18列目の翼の上の脱出口が乗客によって開けられ、脱出を開始しました。
さらに、客室乗務員の責任者が前方左側のL1ドアを開け、乗客を機体の外に誘導しました。
00:30:16 エア・カナダ624便の着陸失敗を確認したTowerがCrash Alarmを発動しました。
Crash Alarmが発動されてから2分後に、全ての乗客の脱出は完了し、緊急車両や空港消防が現場に到着しました。(飛行機が止まってから約5分後)
全ての乗客は機体後方約200mに集められ、安否確認が行われました。何人かのルールを守らない乗客の手には、手荷物が握り締められていました。
幸いにも犠牲者は0人で、重症患者は乗員1名だけでした。4名の乗員と20名の乗客がマイナーな怪我をしていました。
空港のマネージャーと乗客の数名が、「911」に通報していたとの記録があります。
00:42 消防が全員脱出したことを確認したのち、乗客はシェルターに輸送されました。飛行機が止まって50分後には全ての乗客が待機場に運ばれました。

まとめ

天候が悪い中空港の手前で接地して、アンテナや送電線にぶつかって、飛行機が廃棄になる程ダメージを受けたのにも関わらず、犠牲者が出なかったことは奇跡と言えるでしょう。

Localizer Approachは計器に水平方向のズレは示してくれますが、上下のパスのズレはパイロットが判断しなければなりません。

通常アプローチチャートには接地点から1マイル毎に、何フィートの高さで通過すれば、概ね正しいパスであるか示してくれているので参考にするといいでしょう。

アプローチチャート By TSB of CANADA

今回はCold Temperature CorrectionをFAFとMDAにかけているので、アプローチチャートの表は使えないでしょう。

冬季運航に入る前に、3.5°のパスでは何マイルの地点で何ftの高さで通過するべきか、飛行中にでもすぐに出せるようにあらかじめ計算しておいて、一覧表を作っておいてもいいでしょう。

天気が悪く視界が悪いと、少しでも滑走路やアプローチライトを目視しようと、地面に近づいてしまう人間の傾向があります。

さらに、ライトが見えたらそれに飛びついてしまいその光に向けて機首を下げてしまう「ダックアンダー」という現象も引き起こしてしまう可能性もあります。

もう少し下がれば地上が見えそうなギリギリでも、絶対にMDAよりも下がらない、Missed Appraoch Pointまでに目視物表が見つけられないなら、すぐに「Go Around」するなど、機械的な判断が求められる場面でしょう。

「もう少しで見えそう」「アプローチのチャンスは今だけ」「Go Aroundしたら不便がかかる」などGo Aroundしない誘惑がありますが、いかにそれらに惑わされずに決められたことを確実にこなすかが、生死の境目であることが分かったのではないでしょうか。

【関連記事】

【参考文献】



エアラインパイロットのための航空事故防止 1